宅建業法 第11章
自ら売主となる場合の制限(8種制限)
宅建業者が自ら売主となり、宅建業者でない者に宅地・建物を売る場合には、買主を守るための8つの制限があります。これを8種制限と呼びます。この章では、8つの制限を順番に確認し、数字と例外を整理します。計算問題も出るので、具体例で手順を確かめながら読み進めましょう。
8種制限が適用される取引
8種制限は、宅建業者が自ら売主となり、買主が宅建業者でない場合に適用されます。宅建業者どうしの取引には適用されません(宅建業法78条2項)。また、業者が媒介や代理をするだけの取引にも適用されません。
| 売主 | 買主 | 8種制限 |
|---|---|---|
| 宅建業者 | 宅建業者でない者 | 適用あり |
| 宅建業者 | 宅建業者 | 適用なし |
| 宅建業者でない者(業者が媒介) | 宅建業者でない者 | 適用なし |
8つの制限は次のとおりです。
- 自己の所有に属しない宅地・建物の売買契約締結の制限(33条の2)
- 事務所等以外の場所でした買受けの申込みの撤回等(クーリング・オフ、37条の2)
- 損害賠償額の予定等の制限(38条)
- 手付の額の制限等(39条)
- 担保責任についての特約の制限(40条)
- 手付金等の保全(41条・41条の2)
- 割賦販売の契約の解除等の制限(42条)
- 所有権留保等の禁止(43条)
自己の所有に属しない物件の売買の制限
宅建業者は、自分の所有に属しない宅地・建物について、自ら売主となる売買契約(予約を含む)を締結してはなりません(宅建業法33条の2)。他人の物件や、まだ完成していない物件を売ったものの引き渡せない、という事態を防ぐための規定です。
例外として、次の場合は契約できます。
- 業者がその物件を取得する契約(予約を含む)を締結しているとき。ただし、停止条件付きの契約など、効力の発生が条件にかかっているものは除く
- その他、業者が物件を取得できることが明らかな場合として国土交通省令・内閣府令で定めるとき(同法施行規則15条の6)
- 工事完了前の物件で、手付金等の保全措置を講じているとき
たとえば、業者AがBの土地を買う契約を結んでいれば、Aは所有権移転の前でも、その土地をCに売る契約を結べます。しかし、AとBの契約が「Bが代替地を取得できたら売る」という停止条件付きなら、Cと売買契約を結ぶことはできません。
クーリング・オフ
制度の内容
宅建業者が自ら売主となる売買契約で、事務所等以外の場所で買受けの申込みをした者や売買契約を締結した買主は、書面により、申込みの撤回や契約の解除(クーリング・オフ)ができます(宅建業法37条の2第1項)。業者は、クーリング・オフに伴う損害賠償や違約金を請求できず、受け取った手付金などを速やかに返還しなければなりません(同条1項・3項)。
場所の判断
クーリング・オフができるかどうかは、申込みをした場所で判断します。事務所等で申込みをし、事務所等以外の場所で契約を締結した場合は、クーリング・オフはできません。逆に、事務所等以外の場所で申込みをすれば、その後に事務所で契約を締結しても、クーリング・オフができます。
クーリング・オフができない「事務所等」は、次の場所です(同法施行規則16条の5)。
- 売主業者の事務所
- 事務所以外で、継続的に業務を行うことができる施設があり、専任の宅建士を置くべき場所
- 一団の宅地建物の分譲を行う案内所で、土地に定着する建物内にあり、専任の宅建士を置くべきもの
- 売主業者から代理・媒介の依頼を受けた他の宅建業者の事務所や、専任の宅建士を置くべき案内所など
- 専任の宅建士を置くべき場所で売買契約に関する説明をした後、土地に定着する建物内で実施する展示会などの催しの場所
- 買主が自ら申し出た場合の、買主の自宅または勤務先
喫茶店、ホテルのロビー、テント張りの案内所などは事務所等にあたらないため、クーリング・オフができます。また、自宅や勤務先でも、業者の側から訪問を申し出た場合は、クーリング・オフができます。
クーリング・オフができなくなる場合
次の場合は、クーリング・オフはできません(宅建業法37条の2第1項1号・2号)。
- 業者から、クーリング・オフができることとその方法を書面で告げられた日から起算して8日を経過したとき
- 買主が、物件の引渡しを受け、かつ、代金の全部を支払ったとき
告げる書面には、買主の氏名・住所、売主業者の商号・住所・免許証番号、8日間はクーリング・オフができること、損害賠償・違約金を請求されないこと、書面を発した時に効力が生じること、手付金などは遅滞なく全額返還されることを記載します(同法施行規則16条の6)。告げられていない場合は、8日の期間は進行しません。
引渡しと代金全額の支払は、両方がそろったときにクーリング・オフができなくなります。引渡しを受けただけ、代金を全額払っただけでは、まだクーリング・オフができます。
効力が生じる時期と特約
クーリング・オフは、買主が書面を発した時に効力を生じます(宅建業法37条の2第2項)。業者に届いた時ではありません。8日目に書面を発送すれば、業者への到達が9日目以降になっても有効です。これらの規定に反する特約で買主に不利なものは無効です(同条4項)。
損害賠償額の予定等の制限
宅建業者が自ら売主となる売買契約で、債務不履行による解除に伴う損害賠償の額を予定し、または違約金を定めるときは、その合計額が代金の額の10分の2を超える定めをしてはなりません。10分の2を超える部分は無効になります(宅建業法38条)。
たとえば、代金4,000万円の物件で損害賠償額の予定を1,000万円と定めた場合、800万円を超える200万円の部分が無効になり、800万円の定めとして有効です。特約全体が無効になるわけではありません。
損害賠償額の予定をしていない場合は、この規制はかかりません。買主の債務不履行で実際に生じた損害を証明すれば、業者は10分の2を超える額でも請求できます。
手付の額の制限等
宅建業者は、自ら売主となる売買契約の締結に際して、代金の額の10分の2を超える額の手付を受領することができません(宅建業法39条1項)。
業者が受け取った手付は、どのような性質の手付として定めても、解約手付の性質を持ちます。買主は手付を放棄して、業者は手付の倍額を現実に提供して、契約を解除できます。ただし、相手方が契約の履行に着手した後は解除できません(同条2項)。これに反する特約で買主に不利なものは無効です(同条3項)。
- 「買主が手付を放棄して解除する場合は、さらに違約金を支払う」という特約は、買主に不利なので無効
- 「業者は手付の倍額ではなく、手付と同額を返せば解除できる」という特約も、買主に不利なので無効
- 「買主は手付の半額を放棄すれば解除できる」という特約は、買主に有利なので有効
担保責任についての特約の制限
宅建業者が自ら売主となる売買契約では、目的物が種類または品質に関して契約の内容に適合しない場合の担保責任(契約不適合責任)について、民法の規定より買主に不利な特約をしてはなりません。ただし、民法566条の期間について、引渡しの日から2年以上となる特約をすることは認められています(宅建業法40条1項)。これに反する特約は無効です(同条2項)。
民法566条は、買主が不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないと、原則として責任を追及できないと定めています。宅建業法は、この「通知の期間」を「引渡しの日から2年以上」とする特約に限って、民法より不利でも認めています。
- 「通知の期間は引渡しの日から2年間とする」:有効
- 「通知の期間は引渡しの日から1年間とする」:無効。民法の原則(知った時から1年以内に通知)に戻る
- 「売主は一切責任を負わない」:無効
新築住宅の構造耐力上主要な部分などについては、住宅品質確保法により引渡しから10年間の責任が義務づけられています。詳しくは住宅瑕疵担保履行法の章で扱います。
手付金等の保全
保全措置が必要な場合
宅建業者は、自ら売主となる売買で、保全措置を講じた後でなければ、買主から手付金等を受領してはなりません(宅建業法41条1項・41条の2第1項)。手付金等とは、代金に充当される金銭で、契約の締結の日以後、引渡し前に支払われるものをいい、手付金だけでなく中間金も含みます。
ただし、次の場合は保全措置が不要です。
| 物件 | 保全措置が不要な場合 |
|---|---|
| 工事完了前の物件 | 受領しようとする額(既に受領した額を含む)が代金の5%以下、かつ1,000万円以下 |
| 工事完了後の物件 | 受領しようとする額(既に受領した額を含む)が代金の10%以下、かつ1,000万円以下 |
| 共通 | 買主への所有権移転の登記がされたとき、または買主が所有権の登記をしたとき |
工事完了前か完了後かは、売買契約の時点で判断します。
保全措置の方法
| 方法 | 工事完了前 | 工事完了後 |
|---|---|---|
| 銀行等との保証委託契約(連帯保証の書面を買主に交付) | 使える | 使える |
| 保険事業者との保証保険契約(保険証券などを買主に交付) | 使える | 使える |
| 指定保管機関との手付金等寄託契約と、買主との質権設定契約 | 使えない | 使える |
保全措置は、受領しようとする手付金等の全額について講じます。基準を超えた部分だけでよいわけではありません。業者が保全措置を講じないときは、買主は手付金等を支払わないことができます(宅建業法41条4項・41条の2第5項)。買主の承諾があれば、保証の書面などの交付にかえて、電磁的方法による措置も認められています(同法41条5項・41条の2第6項)。
計算例
業者Aが、工事完了前のマンションを代金5,000万円でBに売る場合を考えます。保全措置が不要なのは、5,000万円×5%=250万円以下(かつ1,000万円以下)の場合です。
- 契約時に手付金200万円を受け取る:250万円以下なので保全措置は不要
- その後、中間金300万円を受け取る:既に受け取った200万円と合わせて500万円となり、250万円を超える
- 中間金を受け取る前に、500万円全額について保全措置を講じる必要がある
なお、代金5,000万円の手付の上限は、10分の2の1,000万円です。保全措置を講じても、手付として1,000万円を超えて受け取ることはできません。
割賦販売の契約の解除等の制限
宅建業者が自ら売主となる割賦販売の契約で、買主が賦払金を支払わない場合、業者は、30日以上の相当の期間を定めて支払を書面で催告し、その期間内に支払がないときでなければ、契約を解除したり、支払時期の到来していない賦払金の支払を請求したりできません(宅建業法42条1項)。これに反する特約は無効です(同条2項)。割賦販売とは、代金の全部または一部を、引渡し後1年以上の期間にわたり、2回以上に分割して受領することを条件とする販売です(同法35条2項)。
所有権留保等の禁止
宅建業者が自ら売主として割賦販売を行った場合は、物件を買主に引き渡すまでに、登記その他引渡し以外の売主の義務を履行しなければなりません(所有権を売主に留めておくことの禁止)。ただし、引渡しまでに代金の10分の3を超える額の支払を受けていない場合は、10分の3を超える額の支払を受けるまで、登記の移転を留保できます(宅建業法43条1項)。
また、引渡しを済ませ、代金の10分の3を超える額の支払を受けた後は、担保の目的で物件を譲り受けること(譲渡担保)もしてはなりません(同条2項)。業者が買主のローンを保証した提携ローン型の場合も、同様の規制があります(同条3項・4項)。
数字・期間のまとめ
| 項目 | 数字・期間 | 根拠 |
|---|---|---|
| クーリング・オフの期間 | 書面で告げられた日から起算して8日 | 宅建業法37条の2第1項1号 |
| 損害賠償額の予定と違約金の合計 | 代金の10分の2まで | 宅建業法38条 |
| 手付の上限 | 代金の10分の2 | 宅建業法39条1項 |
| 担保責任の通知期間の特約 | 引渡しの日から2年以上なら可 | 宅建業法40条1項 |
| 保全措置が不要な額(工事完了前) | 代金の5%以下かつ1,000万円以下 | 宅建業法41条1項、同法施行令3条の5 |
| 保全措置が不要な額(工事完了後) | 代金の10%以下かつ1,000万円以下 | 宅建業法41条の2第1項、同法施行令3条の5 |
| 割賦販売の催告期間 | 30日以上、書面で | 宅建業法42条1項 |
| 所有権留保が許される範囲 | 代金の10分の3を超える支払を受けるまで | 宅建業法43条1項 |
試験で問われやすいポイント
- 8種制限は業者が自ら売主で、買主が業者でない取引だけに適用される
- クーリング・オフの場所は申込みの場所で判断し、買主が申し出た自宅・勤務先は事務所等にあたる
- クーリング・オフは書面を発した時に効力を生じ、引渡しと代金全額支払の両方がそろうとできなくなる
- 損害賠償額の予定が10分の2を超えると、超える部分だけが無効になる
- 担保責任の特約は「引渡しから2年以上」なら有効、それより短いと無効で民法の原則に戻る
- 保全措置は受領する手付金等の全額について、受領前に講じる
まとめ
- 8種制限は、業者が売主で一般の人が買主のときに、買主を守るためのルール
- クーリング・オフ8日、損害賠償の予定と手付は10分の2、担保責任は引渡しから2年以上
- 手付金等の保全は、未完成5%・完成10%・1,000万円が基準
- 割賦販売では、30日以上の書面の催告と、10分の3を基準にした所有権留保の制限がある
この章の内容は、宅建業法の一問一答で確認できます。