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権利関係 第3章

代理

この章では、本人に代わって他人が契約をする「代理」のしくみを学びます。不動産取引では、代理人が契約を結ぶ場面がよくあります。正しい代理の要件に加えて、代理権がないのに代理人として行動した「無権代理」と、その場合に相手方を守る「表見代理」が、試験で問われやすい中心論点です。

代理のしくみと3つの要件

代理とは、代理人が本人のためにすることを示して相手方と意思表示をし、その効果が直接本人に帰属するしくみです。たとえば、土地の所有者Aが友人Bに売却を頼み、BがAの代理人としてCと売買契約を結ぶと、売買契約はAとCの間で成立します。

代理の効果が本人に生じるには、次の3つが必要です(民法99条1項)。

  1. 代理権があること
  2. 顕名(本人のためにすることを示すこと。例:「A代理人B」と名乗る)
  3. 代理権の範囲内で代理行為をすること

代理の種類

  • 任意代理:本人が代理人に代理権を与える(委任など)
  • 法定代理:法律の規定で代理権が生じる(親権者、成年後見人など)

顕名がない場合

代理人が本人のためにすることを示さずに意思表示をした場合は、代理人自身のためにしたものとみなされます(民法100条本文)。ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知っていた、または知ることができたときは、本人に効果が生じます(同条ただし書)。

代理権の範囲が決まっていない場合

権限の定めのない代理人ができるのは、保存行為と、物や権利の性質を変えない範囲での利用・改良行為だけです(民法103条)。たとえば、建物の修繕は保存行為にあたりますが、建物を売ることはできません。

代理行為の注意点

意思表示の問題は代理人を基準に判断

代理人が相手方にだまされた、勘違いした、ある事情を知っていた、といった事情は、原則として代理人について判断します(民法101条1項・2項)。実際に意思表示をしたのは代理人だからです。

ただし、特定の法律行為を頼まれた代理人がその行為をした場合、本人は、自分が知っていた事情(または過失で知らなかった事情)について、代理人が知らなかったことを主張できません(同条3項)。本人が事情を知りながら、何も知らない代理人を使って得をすることを防ぐためです。

代理人は制限行為能力者でもよい

制限行為能力者が代理人としてした行為は、行為能力の制限を理由に取り消すことはできません(民法102条本文)。代理の効果は本人に生じ、代理人自身は不利益を受けないうえ、本人がその人を選んだのだからです。たとえば、17歳のBを代理人に選んだAは、Bが未成年者であることを理由に契約を取り消せません。

ただし、制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為は、取り消すことができます(同条ただし書)。たとえば、被保佐人である親が未成年の子の法定代理人として行為をした場合です。子は代理人を選べないため、保護する必要があるからです。

復代理と代理権の消滅

復代理人の選任

復代理人とは、代理人が自分の権限内の行為をさせるために選ぶ、本人の代理人です。復代理人は本人を直接代理し(民法106条1項)、復代理人を選んでも代理人の代理権はなくなりません。

代理人の種類復代理人を選任できる場合責任
任意代理人本人の許諾を得たとき、またはやむを得ない事由があるとき本人との委任契約にもとづいて責任を負う
法定代理人いつでも自己の責任で選任できる原則として全責任。やむを得ない事由で選任したときは選任・監督の責任のみ
民法104条・105条をもとに作成

代理権の消滅事由

代理権は、次の事由で消滅します(民法111条)。任意代理では、委任の終了事由(民法653条)も加わります。

事由法定代理任意代理
本人の死亡消滅消滅
本人の破産手続開始消滅しない消滅
本人の後見開始消滅しない消滅しない
代理人の死亡消滅消滅
代理人の破産手続開始消滅消滅
代理人の後見開始消滅消滅
民法111条・653条をもとに作成

本人が後見開始の審判を受けても代理権が消えない点、代理人が後見開始の審判を受けると代理権が消える点がよく問われます。

自己契約・双方代理と代理権の濫用

自己契約・双方代理

代理人が自分自身を相手方として契約すること(自己契約)や、当事者双方の代理人になること(双方代理)は、本人の利益が害されるおそれがあるため、代理権を有しない者がした行為(無権代理)とみなされます(民法108条1項本文)。たとえば、Aから土地の売却を頼まれた代理人Bが、自分が買主になる場合です。

ただし、債務の履行と、本人があらかじめ許諾した行為は例外です(同項ただし書)。売買契約が成立した後に、司法書士が売主と買主の双方を代理して所有権移転登記を申請することは、すでに決まった債務の履行にあたるため認められます。

このほか、代理人と本人の利益が相反する行為も、本人があらかじめ許諾した場合を除き、無権代理とみなされます(民法108条2項)。

代理権の濫用

代理人が、代理権の範囲内の行為ではあるものの、自分や第三者の利益を図る目的で行為をした場合を代理権の濫用といいます。相手方がその目的を知っていた、または知ることができたときは、無権代理とみなされます(民法107条)。たとえば、Aの代理人Bが、代金を自分の借金返済に使うつもりでAの土地をCに売り、Cがその目的を知っていた場合です。この規定は2020年4月の改正で新設されました。

無権代理

本人が追認しなければ効果は生じない

代理権がない人が代理人として結んだ契約は、本人が追認しなければ、本人に効力を生じません(民法113条1項)。本人は、追認するか、追認を拒絶するかを選べます。追認すると、別段の意思表示がない限り、契約の時にさかのぼって効力が生じます(民法116条)。

相手方の4つの手段

無権代理人と契約した相手方には、次の手段が認められています。

手段内容相手方の要件
催告権本人に相当の期間を定めて追認するか確答を求める。確答がなければ追認拒絶とみなす悪意でもよい
取消権本人が追認しない間、契約を取り消せる善意(代理権がないことを知らない)
無権代理人の責任追及無権代理人に履行または損害賠償を請求できる善意無過失(無権代理人が自分に代理権がないと知っていたときは善意で足りる)。無権代理人が制限行為能力者のときは請求できない
表見代理の主張本人に契約の効果を主張できる各表見代理の要件を満たすこと
民法109条・110条・112条・114条・115条・117条をもとに作成

催告は、悪意の相手方でもできるのに対し、取消しは善意の相手方しかできない点に注意しましょう(民法114条・115条)。催告の期間は「相当の期間」とされ、日数は法律で決められていません。制限行為能力者の相手方の催告(1か月以上)とは異なります。

表見代理

表見代理とは、無権代理であっても、本人にも一定の落ち度があり、相手方が代理権があると信じたことに正当な理由がある場合に、本人に責任を負わせる制度です。3つの類型があります。

代理権授与の表示による表見代理(民法109条)

本人が、実際には代理権を与えていないのに、第三者に「Bに代理権を与えた」と表示した場合です。相手方が善意無過失であれば、本人は責任を負います。

権限外の行為の表見代理(民法110条)

代理人が、与えられた代理権の範囲を超えて行為をした場合です。たとえば、Aから土地の賃貸を頼まれたBが、その土地をCに売ってしまった場合で、Cに「Bに売却の代理権がある」と信じる正当な理由があれば、Aは売買の責任を負います。この類型では、もともと何らかの代理権(基本代理権)があることが前提です。

代理権消滅後の表見代理(民法112条)

代理権が消滅した後に、元代理人がその範囲内で行為をした場合です。相手方が代理権の消滅を知らず、知らないことに過失がなければ、本人は責任を負います。

これらを組み合わせた場合(表示された代理権の範囲外の行為、消滅した代理権の範囲外の行為)も、相手方に正当な理由があれば表見代理が成立します(民法109条2項・112条2項)。

表見代理が成立する場合でも、相手方は表見代理を主張せずに、無権代理人の責任を追及することもできると考えられています。

無権代理と相続

無権代理人と本人の間で相続が起きた場合の結論は、判例で決まっています。

  • 無権代理人が本人を単独で相続した場合:無権代理人は、本人の立場で追認を拒絶することはできず、契約は当然に有効になります。自分で無権代理をしておきながら追認を拒むのは信義に反するためです
  • 本人が無権代理人を相続した場合:本人は追認を拒絶できます。ただし、無権代理人が負っていた責任(民法117条)は相続するため、相手方から損害賠償などを請求されることはあります
  • 無権代理人が他の相続人と共同で本人を相続した場合:共同相続人全員が追認しない限り、無権代理人の相続分についても当然に有効にはなりません

試験で問われやすいポイント

  • 制限行為能力者を代理人にしても、行為能力の制限を理由に取り消せない。ただし、他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為は取り消せる
  • 本人が後見開始の審判を受けても代理権は消滅しないが、代理人が後見開始の審判を受けると消滅する
  • 自己契約・双方代理は無権代理とみなされるが、債務の履行と本人があらかじめ許諾した行為は有効
  • 無権代理の相手方の催告は悪意でもできるが、取消しは善意の相手方に限られる。催告に確答がなければ追認拒絶とみなされる
  • 無権代理人が本人を単独相続すると、追認拒絶はできず契約は有効になる

まとめ

  • 代理の効果が本人に生じるには、代理権・顕名・代理権の範囲内の代理行為が必要
  • 任意代理人は本人の許諾ややむを得ない事由がなければ復代理人を選べないが、法定代理人はいつでも選べる
  • 無権代理は本人が追認しない限り効果がなく、相手方には催告・取消し・無権代理人の責任追及・表見代理の主張という手段がある
  • 表見代理は、代理権授与の表示・権限外の行為・代理権消滅後の3類型で、相手方の善意無過失(正当な理由)が必要
  • 制限行為能力者そのものについては意思能力・制限行為能力者の章を参照

この章の内容は、権利関係の一問一答で確認できます。

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