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権利関係 第15章

相続

この章では、人が亡くなったときに財産が誰にどれだけ引き継がれるかを定めた相続のルールを学びます。相続は毎年のように出題される分野で、法定相続分の計算問題もよく出ます。2024年4月から始まった相続登記の義務化もあわせて確認しましょう。

相続人と相続の順位

相続は、人の死亡によって開始します(民法882条)。亡くなった人を被相続人といいます。相続人になる人と順位は次のとおりです。

  • 配偶者:常に相続人になります(民法890条)。法律上の婚姻をした配偶者に限られ、内縁の配偶者は相続人になりません。
  • 第1順位:子(民法887条1項)。養子や、婚姻していない父母の間の子も含みます。胎児は、相続についてはすでに生まれたものとみなされます(民法886条)。
  • 第2順位:直系尊属(父母・祖父母など)。子がいない場合に相続人になり、親等の近い人が優先します(民法889条1項1号)。
  • 第3順位:兄弟姉妹。子も直系尊属もいない場合に相続人になります(民法889条1項2号)。

代襲相続

相続人となるはずの子が、相続開始以前に死亡していたとき、または相続欠格・廃除によって相続権を失ったときは、その子(被相続人の孫)が代わって相続します。これを代襲相続といいます(民法887条2項)。孫も同じ事由で相続できないときは、ひ孫が再代襲します(同条3項)。

  • 相続放棄は代襲原因に含まれません。子が相続を放棄しても、孫は代襲相続しません。
  • 兄弟姉妹が相続人となる場合も、その子(おい・めい)が代襲します。ただし、再代襲の規定は準用されていないため、おい・めいの子は代襲しません(民法889条2項)。

相続欠格と廃除

相続欠格は、被相続人を故意に死亡させて刑に処せられた人や、遺言書を偽造・破棄・隠匿した人などが、当然に相続人の資格を失う制度です(民法891条)。廃除は、被相続人を虐待したり重大な侮辱を加えたりした推定相続人について、被相続人が家庭裁判所に請求して相続権を奪う制度です。対象は遺留分を持つ推定相続人に限られるため、兄弟姉妹は廃除の対象になりません(民法892条)。遺言で廃除の意思を示すこともできます(民法893条)。

法定相続分

相続人の組み合わせ配偶者血族相続人
配偶者と子2分の1子全体で2分の1
配偶者と直系尊属3分の2直系尊属全体で3分の1
配偶者と兄弟姉妹4分の3兄弟姉妹全体で4分の1
e-Gov法令検索の民法900条をもとに作成(2026年10月確認)

同じ順位の人が複数いるときは、均等に分けます。ただし、父母の一方だけが同じ兄弟姉妹(半血の兄弟姉妹)の相続分は、父母の双方が同じ兄弟姉妹の2分の1です(民法900条4号)。代襲相続人は、本来の相続人が受けるはずだった相続分を引き継ぎます(民法901条)。

計算例:Aが死亡し、配偶者B、子C、すでに死亡した子Dの子E・Fがいるとします。Bは2分の1、子の取り分2分の1をCとDで分けてそれぞれ4分の1、Dの4分の1をEとFが代襲して8分の1ずつになります。

被相続人は遺言で相続分を指定できます(民法902条)。また、生前に特別な贈与(特別受益)を受けた相続人や、被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした相続人がいる場合は、相続分が調整されます(民法903条・904条の2)。2023年4月からは、相続開始から10年を経過した後の遺産分割では、原則としてこれらの調整を行わず、法定相続分(指定があれば指定相続分)で分けることになりました(民法904条の3)。

相続の承認と放棄

相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、単純承認・限定承認・相続放棄のいずれかを選びます。この期間は家庭裁判所に請求して伸ばしてもらえます(民法915条1項)。

  • 単純承認:プラスの財産も借金も無限に引き継ぎます(民法920条)。3か月以内に何もしなかったときや、相続財産を処分したときは、単純承認したものとみなされます(法定単純承認、民法921条)。
  • 限定承認:相続で得た財産の限度でだけ借金を払う方法です。相続人が数人いるときは、全員が共同してしなければなりません(民法922条・923条)。財産目録を作って家庭裁判所に申述します(民法924条)。
  • 相続放棄:家庭裁判所に申述して行い、初めから相続人でなかったものとみなされます(民法938条・939条)。各相続人が単独でできます。相続開始前に放棄することはできません。

いったんした承認や放棄は、3か月の期間内であっても撤回できません(民法919条1項)。ただし、詐欺や強迫を受けた場合など、民法の総則・親族編の規定による取消しは認められます(同条2項)。

遺産分割

相続人が数人いるとき、相続財産はいったん相続人全員の共有になります(民法898条)。これを具体的に分けるのが遺産分割です。共同相続人は、遺言で禁じられている場合などを除き、いつでも協議で分割でき、協議が調わなければ家庭裁判所に請求できます(民法907条)。

  • 効力:遺産分割は相続開始の時にさかのぼって効力を生じます。ただし、第三者の権利を害することはできません(民法909条)。
  • 分割の禁止:被相続人は遺言で、相続開始から5年を超えない期間、分割を禁止できます(民法908条1項)。共同相続人も5年以内の期間を定めて分割しない契約ができますが、終期は相続開始から10年を超えられません(同条2項)。
  • 対抗要件:遺産分割や遺言で法定相続分を超えて取得した部分は、登記などの対抗要件を備えなければ第三者に対抗できません(民法899条の2第1項)。
  • 預貯金の仮払い:各相続人は、預貯金債権の一定額(相続開始時の額の3分の1に自分の法定相続分を掛けた額。金融機関ごとに法務省令で上限あり)を、分割前でも単独で払い戻せます(民法909条の2)。

遺言

15歳に達した人は遺言ができます(民法961条)。未成年者でも、法定代理人の同意は不要です。遺言は法律の方式に従う必要があり(民法960条)、2人以上が同じ証書で遺言すること(共同遺言)はできません(民法975条)。普通の方式は次の3つです。

  • 自筆証書遺言:全文・日付・氏名を自書し、押印します。ただし、添付する財産目録は自書でなくてもよく(パソコン作成や登記事項証明書のコピーも可)、目録の各ページに署名・押印します(民法968条)。
  • 公正証書遺言:証人2人以上の立会いのもと、遺言者が公証人に趣旨を口授して作成します(民法969条)。
  • 秘密証書遺言:署名・押印して封印した遺言書を、公証人1人と証人2人以上の前に提出します(民法970条)。

未成年者、推定相続人・受遺者とその配偶者・直系血族は、証人になれません(民法974条)。公正証書遺言以外の遺言書は、相続開始後に家庭裁判所の検認を受ける必要があります(民法1004条)。ただし、法務局の遺言書保管制度で保管された自筆証書遺言は、検認が不要です(法務局における遺言書の保管等に関する法律11条)。

遺言者は、いつでも遺言の方式に従って遺言を撤回できます(民法1022条)。前の遺言と後の遺言が抵触するときは、抵触する部分は後の遺言で撤回したものとみなされます。遺言の後に、遺言と抵触する生前処分(たとえば遺贈するはずの土地の売却)をした場合も同じです(民法1023条)。撤回する権利を放棄することはできません(民法1026条)。

遺留分と配偶者居住権

遺留分

遺留分は、一定の相続人に最低限保障される取り分です。兄弟姉妹には遺留分がありません。全体の遺留分の割合は、直系尊属のみが相続人の場合は3分の1、それ以外の場合は2分の1で、これに各人の法定相続分を掛けます(民法1042条)。

  • 遺留分を侵害された人は、受遺者や受贈者に対し、侵害額に相当する金銭の支払いを請求できます(民法1046条1項)。2019年7月の改正で、物の返還ではなく金銭請求に一本化されました。
  • この請求権は、相続の開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈を知った時から1年、または相続開始から10年で消滅します(民法1048条)。
  • 相続開始前の遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り有効です。1人が放棄しても、他の相続人の遺留分は増えません(民法1049条)。

配偶者居住権と配偶者短期居住権

2020年4月から、配偶者の住まいを守る制度が設けられました。配偶者居住権は、相続開始時に被相続人所有の建物に住んでいた配偶者が、遺産分割や遺贈によって、その建物を無償で使用収益できる権利です(民法1028条)。存続期間は原則として配偶者の終身の間で(民法1030条)、譲渡はできません(民法1032条2項)。建物の所有者は配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負い、登記をすれば第三者に対抗できます(民法1031条)。

配偶者短期居住権は、相続開始時に無償で住んでいた配偶者が、遺産分割で建物の帰属が確定した日か相続開始から6か月を経過する日のいずれか遅い日までなど、一定期間無償で住み続けられる権利です(民法1037条)。

相続登記の義務化

2024年4月1日から、相続登記の申請が義務になりました。相続によって不動産の所有権を取得した人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権移転の登記を申請しなければなりません。相続人に対する遺贈で取得した人も同じです(不動産登記法76条の2第1項)。法定相続分で登記した後に遺産分割で多く取得した人は、分割の日から3年以内に登記します(同条2項)。

遺産分割がまとまらないときは、3年の期間内に、登記官に対して相続が開始したことと自分が相続人である旨を申し出る相続人申告登記をすれば、義務を履行したものとみなされます。その後の遺産分割で所有権を取得したときは、分割の日から3年以内に登記を申請します(不動産登記法76条の3)。正当な理由なく申請を怠ると、10万円以下の過料の対象になります(不動産登記法164条1項)。施行日より前に開始した相続も義務の対象です。手続のくわしいしくみは不動産登記法の章で扱います。

数字・期間のまとめ

項目数字・期間根拠
承認・放棄の熟慮期間相続開始を知った時から3か月民法915条
遺言能力15歳以上民法961条
公正証書遺言・秘密証書遺言の証人2人以上民法969条・970条
遺言による分割禁止相続開始から5年以内民法908条1項
特別受益・寄与分を考慮しない分割相続開始から10年経過後民法904条の3
遺留分の割合直系尊属のみ3分の1/その他2分の1民法1042条
遺留分侵害額請求権の消滅知った時から1年/相続開始から10年民法1048条
相続登記の申請義務知った日から3年以内(違反は10万円以下の過料)不動産登記法76条の2・164条
e-Gov法令検索の民法・不動産登記法・法務局における遺言書の保管等に関する法律をもとに作成(2026年10月確認)

試験で問われやすいポイント

  • 相続放棄は代襲原因にならない。死亡・欠格・廃除の3つだけ
  • 兄弟姉妹には遺留分がなく、廃除の対象にもならない。兄弟姉妹の代襲はおい・めいまで
  • 限定承認は全員共同、相続放棄は単独でできる
  • 自筆証書遺言の財産目録は自書不要だが、各ページへの署名・押印は必要
  • 遺留分の放棄は相続開始前なら家庭裁判所の許可が必要。相続放棄は開始前にはできない

まとめ

  • 配偶者は常に相続人。血族は子、直系尊属、兄弟姉妹の順
  • 法定相続分は配偶者が2分の1・3分の2・4分の3。半血の兄弟姉妹は2分の1
  • 承認・放棄は知った時から3か月以内。いったんしたら撤回できない
  • 2024年4月から相続登記は義務。3年以内に登記か相続人申告登記をする

この章の内容は、権利関係の一問一答で確認できます。

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