権利関係 第7章
抵当権・根抵当権
この章では、お金を貸した人が、借り手の不動産から優先して返済を受けられるようにする「抵当権」と、継続的な取引のための「根抵当権」を学びます。住宅ローンを組むと、購入した土地・建物に金融機関の抵当権が設定されるのが一般的です。法定地上権や抵当権消滅請求など、要件を正確に覚える必要がある論点が多い分野です。
抵当権とは
基本的なしくみ
抵当権とは、債務者または第三者が、占有を移さないまま債務の担保として提供した不動産について、他の債権者に先立って自分の債権の弁済を受ける権利です(民法369条1項)。たとえば、BがA銀行から3,000万円を借り、自分の土地に抵当権を設定した場合、Bが返済できなくなれば、A銀行は土地を競売にかけ、その代金から他の債権者より先に返済を受けられます。
占有を移さないので、Bは抵当権を設定した後も土地を使い続けることができます。お金を借りた人(債務者)以外の人が、自分の不動産に抵当権を設定することもでき、この人を物上保証人といいます。
抵当権の目的にできるのは、不動産のほか、地上権と永小作権です(民法369条2項)。賃借権には抵当権を設定できません。
抵当権の性質
| 性質 | 内容 |
|---|---|
| 付従性 | 被担保債権がなければ抵当権は成立せず、債権が弁済などで消えれば抵当権も消える |
| 随伴性 | 被担保債権が譲渡されると、抵当権も一緒に移る |
| 不可分性 | 債権の全部の弁済を受けるまで、目的物の全部に効力が及ぶ(民法372条・296条) |
| 物上代位性 | 目的物が売却・賃貸・滅失したときに債務者が受け取る金銭などにも効力が及ぶ(民法372条・304条) |
物上代位
抵当権は、目的物の売却代金、賃料、火災保険金、損害賠償金など、抵当不動産の所有者(債務者や物上保証人)が受け取るべき金銭にも行使することができます。ただし、その金銭が所有者に払い渡される前に差押えをしなければなりません(民法372条・304条1項ただし書)。たとえば、抵当権が設定された建物が火事で焼失した場合、抵当権者は、保険会社から所有者に保険金が支払われる前に差し押さえれば、保険金から優先して弁済を受けられます。
抵当権の効力が及ぶ範囲
目的物の範囲
抵当権は、抵当不動産に付加して一体となっている物に及びます(民法370条)。建物の増築部分や、土地に植えられた樹木などです。一方、土地の上にある建物には及びません(同条)。日本では土地と建物は別々の不動産だからです。土地だけに抵当権を設定した場合、その土地上の建物は抵当権の対象外です。
判例は、抵当権設定当時にあった従物(建物に付属する独立した物。畳や建具など)にも抵当権の効力が及ぶとしています。また、借地上の建物に抵当権を設定した場合、その効力は、建物を所有するための借地権にも及ぶとするのが判例です。
抵当権は、被担保債権について不履行があったときは、その後に生じた果実(賃料など)にも及びます(民法371条)。
利息は最後の2年分
抵当権者が利息などを請求できる場合でも、抵当権を行使して優先弁済を受けられるのは、満期となった最後の2年分に限られます(民法375条1項)。遅延損害金も、利息と通算して2年分が上限です(同条2項)。後順位の抵当権者など他の債権者が、どれだけ優先されるかを予測できるようにするためです。
この制限は、後順位抵当権者など他の債権者との関係で働くものです。債務者や抵当権設定者が、2年分を超える利息を支払わなくてよいという意味ではありません。
抵当権の順位と処分
同じ不動産に複数の抵当権が設定されたときは、登記の前後で順位が決まります(民法373条)。1番抵当権者が優先して弁済を受け、残りがあれば2番抵当権者が受け取ります。
抵当権の順位は、各抵当権者の合意で変更できます。ただし、利害関係を有する者がいるときはその承諾が必要で、順位の変更は登記をしなければ効力を生じません(民法374条)。登記が対抗要件ではなく効力発生要件である点に注意しましょう。
このほか、抵当権者は、抵当権を他の債権の担保にすること(転抵当)や、抵当権・順位を他の債権者のために譲渡・放棄することができます(民法376条)。
抵当不動産の第三取得者の保護
抵当権が設定された不動産も、自由に売買できます。抵当権付きの不動産を買った人(第三取得者)は、抵当権が実行されると所有権を失うおそれがあるため、次の制度で保護されています。
代価弁済
抵当不動産の所有権または地上権を買い受けた第三者が、抵当権者の請求に応じて、売買代金を抵当権者に支払ったときは、抵当権はその第三者のために消滅します(民法378条)。抵当権者の側から求めるのが特徴です。
抵当権消滅請求
抵当不動産の所有権を取得した第三取得者は、自分から抵当権者に一定の金額を提示し、抵当権の消滅を請求できます(民法379条)。
- 請求は、抵当権の実行としての競売による差押えの効力が発生する前にしなければなりません(民法382条)
- 登記をした各債権者に書面を送付し、債権者が書面を受け取ってから2か月以内に競売の申立てをしなければ、提示した金額を承諾したものとみなされます(民法383条・384条)
- 主たる債務者、保証人とその承継人は、抵当権消滅請求をすることができません(民法380条)。本来、全額を支払うべき立場だからです
その他の保護
第三取得者は、競売で自ら買受人になることができます(民法390条)。また、抵当不動産のために必要費や有益費を支出したときは、抵当不動産の代価から他の債権者より先に償還を受けられます(民法391条)。
法定地上権と一括競売
法定地上権の要件
土地と建物が同じ所有者のものである場合、所有者は原則として自分の土地に借地権を設定することができません。そのため、抵当権の実行で土地と建物の所有者が別々になると、建物が土地を使う権利がなくなってしまいます。そこで、一定の要件のもとで、建物のために地上権が設定されたものとみなされます(民法388条)。これを法定地上権といいます。要件は次の4つです。
- 抵当権設定当時、土地の上に建物が存在していたこと
- 抵当権設定当時、土地と建物が同一の所有者に属していたこと
- 土地と建物の一方または両方に抵当権が設定されたこと
- 抵当権の実行(競売)により、土地と建物の所有者が別々になったこと
判例により、次の点が確認されています。
- 更地に抵当権を設定した後に建物が建てられた場合は、法定地上権は成立しません。抵当権者は更地として土地の価値を評価しているからです
- 抵当権設定当時に土地と建物の所有者が別々であれば、その後に同一の所有者になっても、法定地上権は成立しません
- 建物の登記がされていなくても、設定当時に建物が存在し、同一所有者であれば成立します
一括競売
抵当権設定後に、抵当地に建物が建てられたときは、抵当権者は、土地とともにその建物も競売することができます(民法389条1項)。ただし、優先弁済を受けられるのは土地の代価についてだけです(同項ただし書)。
抵当権と賃借人
抵当権の登記の後に設定された賃貸借は、原則として抵当権者や競売の買受人に対抗できません。ただし、次の保護があります。
- 抵当権者の同意の登記:登記をした賃貸借は、その前に登記をした抵当権者全員が同意し、その同意の登記があれば、同意した抵当権者に対抗できます(民法387条)
- 建物明渡しの猶予:抵当権者に対抗できない賃貸借で建物を使っている人のうち、競売手続の開始前から使用している人などは、買受人の買受けの時から6か月を経過するまで、建物を引き渡さなくてよいとされています(民法395条1項)。この猶予は建物に限られ、土地の賃借人には適用されません
根抵当権
根抵当権とは
根抵当権とは、一定の範囲に属する不特定の債権を、極度額(担保する上限額)の限度で担保する抵当権です(民法398条の2第1項)。継続的に商品を売買する取引先同士のように、債権が発生と消滅を繰り返す場合に使われます。普通の抵当権のように、債権が一つ弁済されるたびに抵当権が消えたり、設定し直したりする手間がかかりません。
担保する債権の範囲は、特定の継続的取引契約や一定の種類の取引から生じるものに限定して定める必要があります(同条2項)。どんな債権でも担保する「包括根抵当」は認められません。
普通の抵当権との違い
- 根抵当権者は、確定した元本と利息・遅延損害金の全部について、極度額まで根抵当権を行使できます(民法398条の3第1項)。「最後の2年分」の制限はありません
- 元本の確定前に根抵当権者から債権を譲り受けた人は、その債権について根抵当権を行使できません(民法398条の7第1項)。随伴性がないということです
- 元本の確定前であれば、担保する債権の範囲や債務者を変更できます。この変更には、後順位抵当権者などの承諾は不要ですが、元本の確定前に登記をしなければ、変更しなかったものとみなされます(民法398条の4)
- 極度額の変更には、利害関係を有する者の承諾が必要です(民法398条の5)
- 元本の確定前に根抵当権を譲渡するには、根抵当権設定者の承諾が必要です(民法398条の12)
元本の確定
元本が確定すると、その時点で存在する債権だけが担保され、それ以降に発生した債権は担保されなくなります。
- 元本の確定期日を定めるときは、定めた日から5年以内でなければなりません(民法398条の6第3項)
- 確定期日の定めがない場合、根抵当権設定者は、設定の時から3年を経過すれば元本の確定を請求でき、請求の時から2週間を経過すると確定します(民法398条の19第1項)
- 確定期日の定めがない場合、根抵当権者は、いつでも元本の確定を請求でき、請求の時に確定します(同条2項・3項)
元本の確定後は、根抵当権設定者は、極度額を、現に存在する債務の額に以後2年間に生じる利息・遅延損害金を加えた額まで減らすよう請求できます(民法398条の21)。
数字・期間のまとめ
| 項目 | 内容 | 条文 |
|---|---|---|
| 優先弁済を受けられる利息・損害金 | 満期となった最後の2年分(通算) | 民法375条 |
| 抵当権消滅請求後に競売を申し立てる期間 | 書面の送付を受けてから2か月以内 | 民法383条・384条 |
| 抵当建物使用者の明渡し猶予 | 買受けの時から6か月 | 民法395条 |
| 根抵当権の元本確定期日 | 定めた日から5年以内 | 民法398条の6 |
| 設定者の元本確定請求 | 設定から3年経過後に請求、請求から2週間で確定 | 民法398条の19 |
試験で問われやすいポイント
- 土地に設定した抵当権は、その土地上の建物には及ばない。設定当時の従物や、借地上の建物に設定した場合の借地権には及ぶ
- 物上代位をするには、金銭が払い渡される前に抵当権者自身が差し押さえる必要がある
- 抵当権の順位の変更は、登記をしなければ効力を生じない
- 主たる債務者や保証人は、抵当権消滅請求ができない
- 更地に抵当権を設定した後に建物が建てられても、法定地上権は成立しない
- 根抵当権の債権の範囲・債務者の変更に後順位抵当権者の承諾は不要だが、極度額の変更には利害関係人の承諾が必要
まとめ
- 抵当権は占有を移さずに設定でき、付従性・随伴性・不可分性・物上代位性を持つ
- 優先弁済を受けられる利息・遅延損害金は、満期となった最後の2年分に限られる
- 第三取得者は、代価弁済や抵当権消滅請求によって抵当権を消すことができる
- 法定地上権は、設定当時に建物があり、土地と建物が同一所有者であることなどが要件
- 根抵当権は極度額まで不特定の債権を担保し、元本の確定前は随伴性がない。保証との比較は保証・連帯債務の章を参照
この章の内容は、権利関係の一問一答で確認できます。