権利関係 第4章
時効
この章では、一定の期間が過ぎることで権利を取得したり、権利が消滅したりする「時効」のしくみを学びます。他人の土地を長く使っていた人が所有者になれるのか、貸したお金の返済を求めないまま何年たつと請求できなくなるのか、といった場面です。期間の数字と、2020年4月の改正で変わった用語(完成猶予・更新)がよく問われます。
時効とは
時効には、権利を取得する取得時効と、権利が消える消滅時効の2種類があります。長く続いた事実状態を尊重すること、古い事実の証明が難しくなること、権利の上に眠る者は保護しないこと、などが制度の理由とされています。
時効の効力は、その起算日にさかのぼります(民法144条)。たとえば、取得時効が完成すると、占有を始めた時から所有者だったことになります。
取得時効
所有権の取得時効の要件
所有権の取得時効は、占有を始めた時の状態によって、必要な期間が変わります(民法162条)。
| 占有開始時の状態 | 必要な期間 |
|---|---|
| 善意無過失(自分の物だと信じ、そう信じたことに過失がない) | 10年 |
| 悪意、または善意でも過失がある | 20年 |
どちらの場合も、次の要件が必要です。
- 所有の意思をもった占有であること(自主占有)
- 平穏かつ公然と占有していること
- 他人の物を占有していること(条文の文言です。ただし判例は、自分の物であっても、所有権を証明しにくい場合などに取得時効を主張できるとしています)
所有の意思は、内心ではなく、占有を始めた原因から客観的に判断されます。土地を借りている賃借人は、所有の意思がない占有(他主占有)なので、何年借りていても所有権を時効取得することはできません。
善意無過失かどうかは、占有を始めた時点で判断します。途中で他人の物だと気づいても(悪意になっても)、10年で時効取得できます。
占有の引継ぎ
前の占有者から占有を引き継いだ人(買主や相続人など)は、自分の占有だけを主張することも、前の占有者の占有をあわせて主張することもできます(民法187条1項)。ただし、前の占有をあわせて主張する場合は、前の占有者の瑕疵(悪意・過失など)も引き継ぎます(同条2項)。
たとえば、Aが悪意で8年間占有した土地をBが善意無過失で買い受けて占有を引き継いだ場合、Bは自分の占有だけで10年経過すれば時効取得できます。Aの8年をあわせると、Aの悪意を引き継ぐため20年が必要になり、あと12年かかります。なお、判例は、前の占有者が占有を始めた時に善意無過失であれば、あわせた期間について10年の時効を主張できるとしています。
占有の中止
占有者が自分から占有をやめたり、他人に占有を奪われたりした場合、取得時効は中断し、期間はゼロに戻ります(民法164条)。
所有権以外の権利の取得時効
地上権・地役権・賃借権など、所有権以外の財産権も、自己のためにする意思をもって平穏・公然と行使すれば、所有権と同じ区別で20年または10年で時効取得できます(民法163条)。
消滅時効
債権の消滅時効期間
2020年4月の改正で、債権の消滅時効は次のように整理されました(民法166条1項)。改正前にあった職業別の短期消滅時効(飲食代は1年など)や、商事債権の5年の時効は廃止され、ルールが統一されています。
| 権利 | 消滅時効期間 | 条文 |
|---|---|---|
| 債権(原則) | 権利を行使できることを知った時から5年、または行使できる時から10年の、いずれか早いほう | 民法166条1項 |
| 人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権 | 知った時から5年、または行使できる時から20年 | 民法166条1項、167条 |
| 債権・所有権以外の財産権(地上権など) | 行使できる時から20年 | 民法166条2項 |
| 判決などで確定した権利 | 10年(もとの時効期間が10年より短くても10年) | 民法169条 |
| 不法行為による損害賠償請求権 | 損害と加害者を知った時から3年(生命・身体の侵害は5年)、または不法行為の時から20年 | 民法724条、724条の2 |
所有権は消滅時効にかからない
民法166条2項は「債権又は所有権以外の財産権」と定めています。所有権は消滅時効によって消えることはありません。ただし、他人が取得時効によって所有権を取得すれば、その反射として元の所有者は所有権を失います。
いつから数えるか
「行使することができる時」は、債務の期限の定め方によって次のように考えます。
- 確定期限のある債権(例:「4月30日に支払う」):期限が来た時から
- 不確定期限のある債権(例:「Aが死亡した時に支払う」):期限が到来した時から
- 期限の定めのない債権:債権が成立した時から
売買代金のように支払日が決まっている債権は、通常、債権者が支払日を知っているため、その日から5年で時効が完成することになります。
時効の完成猶予と更新
2020年4月の改正で、従来の「時効の中断」「時効の停止」は、更新と完成猶予に整理されました。
- 完成猶予:一定の時期まで、時効の完成が先送りされる。それまでに経過した期間は消えない
- 更新:それまでの経過期間がリセットされ、新たにゼロから進行を始める
| 事由 | 完成猶予 | 更新 |
|---|---|---|
| 裁判上の請求・支払督促など | 手続が終わるまで(権利が確定せずに終わった場合は、終了から6か月を経過するまで) | 確定判決などで権利が確定したとき、手続終了時から新たに進行 |
| 強制執行・担保権の実行など | 手続が終わるまで(取下げなどで終わった場合は終了から6か月) | 手続終了時から新たに進行(取下げなどの場合を除く) |
| 仮差押え・仮処分 | 終了から6か月を経過するまで | なし |
| 催告(裁判外での請求) | 催告の時から6か月を経過するまで | なし |
| 協議を行う旨の書面による合意 | 原則として合意から1年など(再度の合意で延長できるが、通算5年まで) | なし |
| 承認 | なし | 承認の時から新たに進行 |
催告
催告とは、内容証明郵便などで裁判外で支払いを求めることです。催告をすると、その時から6か月を経過するまで時効は完成しません(民法150条1項)。ただし、催告で完成が猶予されている間に再度催告をしても、さらに猶予されることはありません(同条2項)。この6か月の間に裁判上の請求などをする必要があります。
協議を行う旨の合意
権利について協議を行う旨の合意を書面(または電磁的記録)ですると、合意から1年を経過した時、合意で定めた1年未満の協議期間を経過した時、協議の続行を拒絶する書面の通知から6か月を経過した時の、いずれか早い時まで時効は完成しません(民法151条)。2020年4月の改正で新設された制度です。
承認
債務者が債務を承認すると、時効は更新されます(民法152条1項)。一部の弁済、支払猶予のお願い、利息の支払いなども承認にあたります。承認をするのに、相手方の権利について処分の能力や権限は必要ありません(同条2項)。たとえば、被保佐人も単独で有効に承認できます。
効力が及ぶ人の範囲
完成猶予や更新の効力は、原則として、その事由が生じた当事者とその承継人の間でだけ生じます(民法153条)。ただし、主たる債務者に対する履行の請求などによる完成猶予・更新は、保証人にも効力が及びます(民法457条1項)。
時効の援用と放棄
援用
時効期間が過ぎても、それだけで当然に権利が取得されたり消えたりするわけではありません。時効の利益を受ける人が「時効の利益を受けます」と主張すること(援用)が必要で、援用がなければ裁判所は時効を前提に裁判をすることができません(民法145条)。
消滅時効を援用できる人には、債務者本人のほか、保証人、物上保証人、抵当不動産の第三取得者その他、権利の消滅について正当な利益を持つ人が含まれます(民法145条かっこ書)。たとえば、Aの借金のために自分の土地に抵当権を設定した物上保証人Bは、Aの借金の消滅時効を援用できます。
時効の利益の放棄
時効の利益は、あらかじめ放棄することはできません(民法146条)。お金を貸すときに「時効を主張しません」と約束させても無効です。立場の強い債権者が、借りる側に放棄を強いることを防ぐためです。
一方、時効が完成した後に放棄することはできます。また、判例は、時効完成後に債務者が債務を承認した場合(たとえば一部を支払った場合)、時効の完成を知らなかったとしても、その後に時効を援用することは信義則に照らして許されないとしています。
数字・期間のまとめ
| 項目 | 期間 | 条文 |
|---|---|---|
| 所有権の取得時効(善意無過失) | 10年 | 民法162条2項 |
| 所有権の取得時効(それ以外) | 20年 | 民法162条1項 |
| 債権の消滅時効 | 知った時から5年/行使できる時から10年 | 民法166条1項 |
| 生命・身体の侵害による損害賠償請求権 | 知った時から5年/行使できる時から20年 | 民法167条、724条の2 |
| 判決で確定した権利 | 10年 | 民法169条 |
| 催告による完成猶予 | 6か月 | 民法150条 |
| 協議の合意による完成猶予 | 原則1年(通算5年まで) | 民法151条 |
試験で問われやすいポイント
- 取得時効の善意無過失は占有開始時に判断する。途中で悪意になっても10年で時効取得できる
- 賃借人など所有の意思のない占有者は、所有権を時効取得できない
- 前の占有者の占有をあわせて主張すると、その瑕疵も引き継ぐ
- 催告による完成猶予中に再度催告しても、完成猶予の効力はない
- 所有権は消滅時効にかからない
- 時効の利益はあらかじめ放棄できない。時効完成後に承認すると、知らなかったとしても援用できなくなる
まとめ
- 所有権の取得時効は、所有の意思をもって平穏・公然に占有し、占有開始時に善意無過失なら10年、そうでなければ20年
- 債権は、知った時から5年または行使できる時から10年で消滅時効にかかる
- 2020年4月から、中断・停止は「更新」と「完成猶予」に整理された
- 時効は援用が必要で、保証人や物上保証人、第三取得者も援用できる
- 時効取得と登記の関係は物権変動と対抗要件の章で扱う
この章の内容は、権利関係の一問一答で確認できます。