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権利関係 第5章

物権変動と対抗要件

この章では、所有権などの物権が移転したときに、それを他人に主張するためのルール(対抗要件)を学びます。中心になるのは「不動産の物権変動は、登記をしなければ第三者に対抗できない」という民法177条です。二重譲渡や、取消し・解除・時効・相続がからむ事例問題は、権利関係のなかでも特によく出ます。

物権と物権変動

物権とは

物権とは、物を直接支配する権利です。代表的なものは所有権で、ほかに地上権・地役権・抵当権などがあります。物権は、民法その他の法律で定められたもの以外は、当事者が自由につくることはできません(物権法定主義、民法175条)。物権は誰に対しても主張できる強い権利なので、内容をあらかじめ法律で決めておく必要があるからです。

所有権はいつ移るか

物権の設定や移転は、当事者の意思表示だけで効力を生じます(民法176条)。登記や代金の支払い、引渡しは、所有権移転の条件ではありません。判例は、特約がなければ、売買契約を結んだ時に所有権が買主に移るとしています。

ただし、当事者が「代金を全額支払った時に所有権が移転する」といった特約をすることは可能で、実際の不動産取引ではこのような特約がよく使われます。

対抗要件としての登記

民法177条のルール

不動産に関する物権の取得・喪失・変更は、登記をしなければ第三者に対抗することができません(民法177条)。対抗とは、自分の権利を相手に主張することです。

当事者の間では、意思表示だけで所有権は移ります。しかし、それを当事者以外の第三者に主張するには、登記という公示が必要になります。不動産の権利関係を外から分かるようにして、取引の安全を守るためです。なお、動産の場合は、登記ではなく引渡しが対抗要件です(民法178条)。

二重譲渡

Aが自分の土地をBに売り、その後、同じ土地をCにも売った場合を二重譲渡といいます。

  • BとCのどちらが所有者になるかは、先に登記を備えたほうで決まります。契約の先後や代金の支払いの先後は関係ありません
  • Cが、AB間の売買を知っていた(悪意)としても、先に登記をすればCが優先します。自由な競争の範囲内とされるためです
  • 登記を備えられなかった側は、Aに対して債務不履行の責任(損害賠償など)を追及することになります

登記がなくても対抗できる相手

民法177条の「第三者」とは、当事者とその包括承継人(相続人など)以外の人で、登記がないことを主張する正当な利益を持つ人をいうとされています(判例)。したがって、次のような人に対しては、登記がなくても所有権を主張できます。

相手登記なしで対抗できるか理由
売主本人やその相続人できる当事者(または当事者の地位を引き継いだ人)であり第三者ではない
不法占拠者・不法行為者できる正当な利益を持たない
無権利者(書類を偽造して登記した人など)とその譲受人できるもともと権利がない
背信的悪意者できる信義に反するため保護されない(判例)
詐欺・強迫によって登記申請を妨げた人できる不動産登記法5条1項
他人のために登記を申請する義務を負う人(依頼された司法書士など)できる不動産登記法5条2項
単なる悪意の第二譲受人できない自由競争の範囲内として第三者に含まれる
賃借人(賃料を請求する場合)できない新所有者が賃料を請求するには所有権移転登記が必要(民法605条の2第3項)
民法177条、605条の2、不動産登記法5条および判例をもとに作成

背信的悪意者

背信的悪意者とは、単に事情を知っているだけでなく、先に買った人に高値で売りつける目的で買い受けるなど、信義に反する態様で取引に入った人です。背信的悪意者に対しては、登記がなくても所有権を主張できます。

ただし、背信的悪意者Cからさらに土地を買ったDについては、D自身が背信的悪意者でなければ、民法177条の第三者として扱われるとするのが判例です。この場合、最初の買主Bは、登記がなければDに対抗できません。

取消し・解除と登記

取消しと登記

Aがだまされて土地をBに売り、Bへの登記がされた後に、Aが売買を取り消した場合を考えます。

  • 取消し前にBから買った第三者C:詐欺の場合は、Cが善意無過失であればAは取消しを対抗できません(民法96条3項)。強迫の場合は、AはCに対抗できます
  • 取消し後にBから買った第三者C:判例は、取消しによってBからAへ所有権が戻る動きと、BからCへの譲渡を、二重譲渡と同じように考えます。AとCのどちらが先に登記をしたかで決まります

取消し後は、Aは登記を自分に戻すことができたのに放置していた以上、登記の先後で決めるのが公平だという考え方です。

解除と登記

AがBに土地を売り、Bが代金を払わないため、Aが売買契約を解除した場合も、同じように考えます。

  • 解除前の第三者C:解除は第三者の権利を害することはできません(民法545条1項ただし書)。判例は、この第三者として保護されるには、Cが登記を備えている必要があるとしています。Cの善意・悪意は問われません
  • 解除後の第三者C:AとCのどちらが先に登記をしたかで決まります(判例)

時効・相続と登記

取得時効と登記

Bが、Aの土地を時効取得した場合の、Bと第三者Cの関係は、判例によって次のように整理されています。

第三者Cが登場した時期結論
時効完成前にAから土地を買ったCBは登記がなくてもCに対抗できる(Cは時効完成時の当事者にあたる)
時効完成後にAから土地を買ったCBとCは二重譲渡と同じ関係になり、先に登記をしたほうが優先する
判例をもとに作成

なお、時効の起算点は、実際に占有を始めた時に固定され、時効を主張する人が自由にずらすことはできないとされています。また、時効完成後に第三者Cが登記をしても、その後さらにBが時効に必要な期間占有を続ければ、BはCに対して登記なしで時効取得を主張できるとした判例があります。

相続と登記

相続によって不動産を取得した場合のルールは、次のとおりです。

  • 法定相続分までの取得は、登記がなくても第三者に対抗できます
  • 遺産分割や遺言によって法定相続分を超えて取得した部分は、登記などの対抗要件を備えなければ、第三者に対抗できません(民法899条の2第1項)。この規定は2019年7月から適用されています
  • 相続を放棄した人は、はじめから相続人でなかったものとみなされます(民法939条)。判例は、相続放棄の効力は登記がなくても誰に対しても主張できるとしています

たとえば、父Aの土地をBとCが2分の1ずつ相続したのに、Cが勝手に単独所有の登記をしてDに売った場合、BはDに対して、自分の持分(2分の1)については登記がなくても主張できます。

また、2024年4月から、相続で不動産を取得した人には相続登記の申請が義務づけられています。詳しくは不動産登記法の章で説明します。

試験で問われやすいポイント

  • 二重譲渡では、契約や代金支払いの先後ではなく、登記の先後で決まる。単なる悪意の第二譲受人にも登記がなければ対抗できない
  • 背信的悪意者には登記なしで対抗できるが、背信的悪意者からの転得者は、その人自身が背信的悪意者でなければ第三者にあたる
  • 取消し後・解除後・時効完成後に現れた第三者とは、登記の先後で決まる
  • 解除前の第三者が保護されるには登記が必要だが、善意である必要はない
  • 時効完成前に所有者から買った第三者には、時効取得者は登記なしで対抗できる
  • 法定相続分を超える部分の取得は、登記がなければ第三者に対抗できない。相続放棄は登記なしで対抗できる

まとめ

  • 所有権は原則として契約時に移転し、当事者間では登記がなくても主張できる
  • 第三者に対抗するには登記が必要で、二重譲渡では先に登記をしたほうが優先する
  • 不法占拠者・無権利者・背信的悪意者などには、登記がなくても対抗できる
  • 取消し・解除・時効・相続がからむ場合は、第三者が現れた時期で結論が分かれる
  • 関連する章:意思表示、時効、債務不履行・解除・危険負担

この章の内容は、権利関係の一問一答で確認できます。

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