権利関係 第1章
意思能力・制限行為能力者
この章では、契約をする「能力」についてのルールを学びます。判断する力が十分でない人を守るしくみ(意思能力と制限行為能力者の制度)と、その相手方を守るしくみの両方を押さえることが目標です。権利関係の土台になる分野で、試験でもよく出ます。
意思能力とは
契約などの法律行為(権利や義務を発生させる行為)をするには、自分の行為の結果を判断できる力が必要です。この力を意思能力といいます。
意思表示をした時に意思能力がなかった場合、その法律行為は無効です(民法3条の2)。たとえば、重い認知症で判断ができない状態のAが、自宅をBに売る契約書に署名しても、その売買は無効になります。この規定は、2020年4月の民法改正で条文に明記されました。
ただし、契約の時に意思能力がなかったことは、後から証明するのが難しいことがあります。そこで民法は、判断力が不十分な人をあらかじめ類型化し、一定の行為を「取り消すことができる」ものとする制度を設けています。これが次に説明する制限行為能力者の制度です。
- 無効:はじめから効力がない。誰かが主張しなくても効力は生じません。
- 取消し:取り消されるまでは有効。取り消されると、はじめにさかのぼって無効だったものとみなされます(民法121条)。
制限行為能力者の4つの類型
単独で有効な法律行為をすることができる資格を行為能力といいます。行為能力が制限されている人を制限行為能力者といい、民法は次の4種類を定めています。
| 類型 | 対象となる人 | 保護者 | 保護者の権限 |
|---|---|---|---|
| 未成年者 | 18歳未満の人 | 親権者・未成年後見人(法定代理人) | 代理権・同意権・取消権・追認権 |
| 成年被後見人 | 精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあり、後見開始の審判を受けた人 | 成年後見人 | 代理権・取消権・追認権(同意権はない) |
| 被保佐人 | 事理を弁識する能力が著しく不十分で、保佐開始の審判を受けた人 | 保佐人 | 同意権・取消権・追認権(代理権は審判で付与されたときのみ) |
| 被補助人 | 事理を弁識する能力が不十分で、補助開始の審判を受けた人 | 補助人 | 審判で定められた範囲の同意権・代理権など |
成年被後見人・被保佐人・被補助人は、家庭裁判所の審判を受けてはじめてその立場になります。判断力が低下していても、審判を受けていなければ制限行為能力者ではありません(その場合は、意思能力がなかったことを理由に無効を主張することになります)。
未成年者
成年年齢は18歳
年齢18歳で成年になります(民法4条)。2022年4月から、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられました。同時に、婚姻ができる年齢も男女とも18歳にそろえられ(民法731条)、以前あった「婚姻した未成年者は成年とみなす」という規定は削除されています。
原則:法定代理人の同意が必要
未成年者が法律行為をするには、法定代理人(通常は親権者)の同意が必要です。同意を得ずにした行為は、取り消すことができます(民法5条1項・2項)。たとえば、17歳のAが親の同意なしにBから中古車を買った場合、Aも親も、この売買を取り消せます。
例外:単独でできる行為
次の行為は、未成年者が単独でしても取り消すことはできません。
- 単に権利を得る、または義務を免れる行為(例:負担のない贈与を受ける、借金を免除してもらう)(民法5条1項ただし書)
- 法定代理人が目的を定めて処分を許した財産を、その目的の範囲内で処分すること。目的を定めずに処分を許した財産(おこづかいなど)は自由に処分できます(民法5条3項)
- 法定代理人から営業を許された場合の、その営業に関する行為(民法6条1項)
注意したいのは、負担付きの贈与を受けることは「単に権利を得る」行為に当たらない点です。義務も負うため、法定代理人の同意が必要になります。
成年被後見人
成年被後見人がした法律行為は、取り消すことができます。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為は取り消せません(民法9条)。
成年後見人には同意権がないと考えられている点が重要です。成年被後見人は、同意をもらっても、そのとおりに行動できるとは限らないためです。そのため、成年後見人の同意を得て成年被後見人が土地を売った場合でも、その売買は取り消すことができます。
成年後見人は、成年被後見人の財産を管理し、財産に関する法律行為について本人を代表します(民法859条)。ただし、成年被後見人が住んでいる建物やその敷地を売却したり、賃貸したり、抵当権を設定したりするには、家庭裁判所の許可が必要です(民法859条の3)。住まいは本人の生活に大きく影響するためです。
被保佐人と被補助人
被保佐人:民法13条1項の行為に保佐人の同意が必要
被保佐人は、原則として単独で法律行為ができます。ただし、民法13条1項に列挙された重要な行為をするには、保佐人の同意が必要です。宅建試験で特に関係が深いのは次の行為です。
- 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為(土地の売買など)
- 借財または保証をすること
- 新築・改築・増築・大修繕をすること
- 民法602条の期間を超える賃貸借をすること(建物は3年、土地は5年を超える賃貸借)
- 相続の承認・放棄、遺産の分割
- 贈与・和解をすること
同意が必要な行為を同意なしにした場合は、取り消すことができます(民法13条4項)。保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないのに同意しないときは、家庭裁判所が同意に代わる許可を与えることができます(同条3項)。保佐人は当然には代理権を持たず、家庭裁判所の審判で特定の行為について代理権が与えられることがあります(民法876条の4)。
被補助人:審判で決めた行為だけ同意が必要
被補助人は、4類型のなかで最も判断力が保たれている人です。補助人の同意が必要になるのは、家庭裁判所が審判で定めた「特定の法律行為」だけで、その範囲は民法13条1項の行為の一部に限られます(民法17条1項)。
本人の自己決定を尊重するため、本人以外の人の請求で補助開始の審判をするには、本人の同意が必要です(民法15条2項)。同意権を付与する審判(民法17条2項)や代理権を付与する審判(民法876条の9)を本人以外の請求でするときも、本人の同意が必要です。
制度の見直しについて
2026年6月に、成年後見制度を見直す民法等の改正法(令和8年法律第45号)が公布されました。後見・保佐・補助の区分などを改める内容で、公布から2年6か月以内の政令で定める日に施行される予定です。施行されるまでは、この章で説明した現行の制度が適用されます。
取消しと追認のルール
取り消すことができる人
行為能力の制限を理由とする取消しは、制限行為能力者本人、その代理人、承継人(相続人など)、同意をすることができる者(保佐人・補助人)に限ってすることができます(民法120条1項)。制限行為能力者本人も、保護者の同意なしに単独で取り消せます。
取消しの効果と返還の範囲
取り消された行為は、はじめから無効だったものとみなされます(民法121条)。受け取ったものは、お互いに返還しなければなりません(民法121条の2第1項)。ただし、行為の時に制限行為能力者だった者は、現に利益を受けている限度(現存利益)で返せば足ります(同条3項)。たとえば、受け取った代金を生活費に使った場合は、その分の出費を免れているので返還が必要ですが、遊興費として浪費した分は返還しなくてよいと考えられています。
制限行為能力を理由とする取消しは、善意の第三者にも対抗できます。詐欺による取消し(民法96条3項)のような第三者保護の規定がないためです。たとえば、未成年者AがBに土地を売り、Bがそれを事情を知らないCに転売しても、Aは取り消してCに土地の返還を求めることができます。
追認
追認とは、取り消すことができる行為を確定的に有効にする意思表示です。追認すると、もう取り消すことはできません(民法122条)。追認は、取消しの原因となっていた状況が消えた後(未成年者なら成年になった後)で、かつ取消権があることを知った後にしなければ効力を生じません(民法124条1項)。法定代理人・保佐人・補助人が追認する場合は、取消しの原因となっていた状況が消えるのを待つ必要はありません(同条2項)。
また、追認できる時以後に、全部または一部の履行、履行の請求、担保の供与、取得した権利の譲渡などがあると、追認したものとみなされます(法定追認、民法125条)。
取消権の期間
取消権は、追認をすることができる時から5年間行使しないとき、または行為の時から20年を経過したときに消滅します(民法126条)。
相手方を守るルール
催告権
制限行為能力者と取引した相手方は、「取り消されるかもしれない」という不安定な立場に置かれます。そこで、相手方は1か月以上の期間を定めて、追認するかどうか確答するよう催告できます(民法20条)。期間内に返事がない場合の効果は、誰に催告したかで変わります。
| 催告の相手 | 期間内に確答がないとき |
|---|---|
| 行為能力者となった後の本人 | 追認したものとみなす |
| 法定代理人・保佐人・補助人(その権限内の行為) | 追認したものとみなす |
| 被保佐人・被補助人(保佐人・補助人の追認を得るよう催告) | 取り消したものとみなす |
判断できる人(行為能力者になった本人や保護者)が黙っていれば追認、判断力が不十分な本人が黙っていれば取消し、と覚えると整理しやすくなります。なお、意思表示を受けた時に未成年者や成年被後見人だった相手には、原則としてその意思表示を対抗できません(民法98条の2)。そのため、催告は行為能力者となった後の本人か、法定代理人に対してするのが基本です。
詐術を用いた場合
制限行為能力者が、自分は行為能力者であると相手方に信じさせるために詐術(だますための手段)を用いたときは、その行為を取り消すことができなくなります(民法21条)。たとえば、未成年者が偽の身分証を示して成年だと信じさせた場合です。だました本人まで保護する必要はないからです。
数字・期間のまとめ
| 項目 | 内容 | 条文 |
|---|---|---|
| 成年年齢 | 18歳(2022年4月から) | 民法4条 |
| 催告の期間 | 1か月以上 | 民法20条 |
| 取消権の消滅 | 追認できる時から5年/行為の時から20年 | 民法126条 |
| 被保佐人が同意を要する賃貸借 | 建物3年・土地5年を超えるもの | 民法13条1項9号、602条 |
試験で問われやすいポイント
- 意思能力がない人の法律行為は「無効」、制限行為能力者の行為は「取り消すことができる」。結論の違いを混同しない
- 成年被後見人は、成年後見人の同意を得てした行為でも取り消せる。日用品の購入など日常生活に関する行為は取り消せない
- 成年後見人が本人の居住用不動産を売却・賃貸・抵当権設定するには、家庭裁判所の許可が必要
- 負担付き贈与を受けることは、未成年者が単独でできる行為には当たらない
- 制限行為能力を理由とする取消しは、善意(無過失)の第三者にも対抗できる
- 催告に返事がない場合、被保佐人・被補助人に催告したときだけは「取り消したもの」とみなされる
まとめ
- 意思能力がない状態でした法律行為は無効になる(民法3条の2)
- 制限行為能力者は、未成年者・成年被後見人・被保佐人・被補助人の4種類で、保護者の権限がそれぞれ違う
- 取消しの効果は遡及し、制限行為能力者は現存利益の範囲で返還すればよい
- 相手方は1か月以上の期間を定めて催告でき、制限行為能力者が詐術を用いたときは取り消せない
- 代理人が制限行為能力者である場合のルールは、代理の章で扱います
この章の内容は、権利関係の一問一答で確認できます。