権利関係 第6章
不動産登記法
この章では、不動産の権利関係を公示する「登記」の手続きを定めた不動産登記法を学びます。前の章で見たように、登記は第三者に権利を主張するための対抗要件です。ここでは、登記記録の中身、誰が申請するのか、申請の義務があるのはどんな場合か、といった手続き面を整理します。よく出題される分野で、近年の改正点も重要です。
登記記録のしくみ
登記記録は、一筆の土地または一個の建物ごとに作成される電磁的記録です(不動産登記法2条5号)。大きく表題部と権利部に分かれ、権利部はさらに甲区と乙区に分かれます(不動産登記規則4条4項)。
| 区分 | 記録される内容 | 例 |
|---|---|---|
| 表題部 | 不動産の物理的な状況(表示に関する登記) | 土地の所在・地番・地目・地積、建物の所在・家屋番号・種類・構造・床面積 |
| 権利部(甲区) | 所有権に関する登記 | 所有権保存登記、所有権移転登記、差押えの登記 |
| 権利部(乙区) | 所有権以外の権利に関する登記 | 抵当権、地上権、賃借権の登記 |
所有権の登記がない不動産では、表題部に所有者が記録されます。この人を表題部所有者といいます(不動産登記法2条10号)。権利部に権利者として記録されている人は登記名義人です(同条11号)。
登記できる権利は、所有権・地上権・永小作権・地役権・先取特権・質権・抵当権・賃借権・配偶者居住権・採石権です(不動産登記法3条)。占有権や留置権は登記できません。
表示に関する登記
申請義務と期間
表示に関する登記は、不動産の現況を正しく記録するためのものです。そのため、所有者に申請の義務があり、期間も定められています。
- 新築した建物や表題登記のない建物の所有権を取得した人は、取得の日から1か月以内に表題登記を申請しなければなりません(不動産登記法47条1項)
- 新たに生じた土地などの所有権を取得した人も、1か月以内に表題登記を申請します(同法36条)
- 土地の地目・地積に変更があったとき、建物の種類・構造・床面積などに変更があったときは、1か月以内に変更の登記を申請します(同法37条・51条)
- 建物が滅失したときは、1か月以内に滅失の登記を申請します(同法57条)
これらの申請を正当な理由なく怠ると、10万円以下の過料の対象になります(同法164条1項)。
登記官の職権
表示に関する登記は、申請がなくても、登記官が職権ですることができます(不動産登記法28条)。権利に関する登記が原則として申請がなければできないのと対照的です。
分筆・合筆
土地を分ける分筆、まとめる合筆の登記は、表題部所有者または所有権の登記名義人しか申請できません(不動産登記法39条1項)。
権利に関する登記の申請
申請主義と共同申請
登記は、法令に別段の定めがある場合を除き、当事者の申請または官公署の嘱託がなければできません(不動産登記法16条1項)。
権利に関する登記は、登記権利者と登記義務者が共同して申請するのが原則です(不動産登記法60条)。登記権利者は登記によって直接利益を受ける人、登記義務者は直接不利益を受ける登記名義人です(同法2条12号・13号)。AがBに土地を売った場合、買主Bが登記権利者、売主Aが登記義務者になります。登記によって不利益を受ける人も申請に加わることで、登記の内容が真実であることを確保するためです。
申請は、オンラインでも、書面を登記所に提出する方法でもできます(不動産登記法18条)。
単独で申請できる場合
共同申請の例外として、次の登記は単独で申請できます。
| 登記 | 申請する人 | 条文 |
|---|---|---|
| 登記手続を命じる確定判決による登記 | 判決を得た側 | 不動産登記法63条1項 |
| 相続・法人の合併による権利の移転の登記 | 登記権利者(相続人など) | 同法63条2項 |
| 相続人に対する遺贈による所有権移転の登記 | 登記権利者(受遺者である相続人) | 同法63条3項 |
| 登記名義人の氏名・名称・住所の変更・更正の登記 | 登記名義人 | 同法64条1項 |
| 所有権保存の登記 | 表題部所有者やその相続人など | 同法74条 |
| 仮登記(登記義務者の承諾がある場合、仮登記を命じる処分がある場合) | 仮登記の登記権利者 | 同法107条1項 |
| 仮登記の抹消 | 仮登記の登記名義人など | 同法110条 |
| 買戻しの特約の登記の抹消(契約の日から10年経過後) | 登記権利者 | 同法69条の2 |
相続人ではない人への遺贈による所有権移転登記は、原則どおり共同申請です。相続人に対する遺贈の単独申請と、買戻しの特約の登記の単独抹消は、2023年4月から認められています。
所有権保存の登記
所有権保存の登記は、所有権について最初にする登記です。申請できるのは、表題部所有者またはその相続人、確定判決で所有権を確認された人、収用によって所有権を取得した人に限られます(不動産登記法74条1項)。ただし、区分建物(マンションの専有部分)では、表題部所有者から所有権を取得した人も、直接自分名義で保存登記を申請できます(同条2項)。分譲マンションの購入者が、分譲業者を経由せずに保存登記をできるようにするためです。
代理人による申請
登記申請の委任を受けた代理人の権限は、本人の死亡によっては消滅しません(不動産登記法17条1号)。民法の代理では本人の死亡で代理権が消えるのと異なる点です。
利害関係人の承諾が必要な場合
- 権利の変更・更正の登記は、登記上の利害関係を有する第三者の承諾があるか、そのような第三者がいない場合に限り、付記登記ですることができます(不動産登記法66条)
- 権利に関する登記の抹消は、登記上の利害関係を有する第三者がいる場合、その承諾がなければ申請できません(同法68条)
登記識別情報と本人確認
登記識別情報
登記を申請して自らが登記名義人となった人には、登記完了後に登記識別情報(登記名義人本人であることを確認するための符号)が通知されます(不動産登記法21条)。以前の「登記済証(権利証)」に代わるものです。
共同申請で権利に関する登記を申請するときは、登記義務者の登記識別情報を提供しなければなりません(同法22条)。売主Aが本当に登記名義人本人であることを確認するためです。
登記識別情報を提供できない場合
紛失などで登記識別情報を提供できないときは、登記官が登記義務者に事前通知を送り、申請の内容が真実であれば一定期間内に申し出るよう求めます(不動産登記法23条1項)。この期間は、通知を発送した日から2週間(登記義務者が外国に住所を有する場合は4週間)です(不動産登記規則70条8項)。資格者代理人(司法書士など)による本人確認情報の提供や、公証人の認証がある場合は、事前通知を省略できます(同法23条4項)。
仮登記
仮登記は、本登記をするための要件がそろっていないときに、将来の本登記の順位を確保しておくための登記です。次の場合にすることができます(不動産登記法105条)。
- 権利の移転などはすでに生じているが、登記識別情報など申請に必要な情報を提供できないとき(1号仮登記)
- 権利の移転などの請求権を保全しようとするとき(2号仮登記。売買予約など)
仮登記にもとづいて本登記をすると、本登記の順位は仮登記の順位によります(不動産登記法106条)。たとえば、AがBのために仮登記をした後、Cに土地を売ってCへの移転登記がされても、Bが本登記をすれば、Bの順位が優先します。
ただし、所有権に関する仮登記にもとづく本登記は、登記上の利害関係を有する第三者(上の例のC)がいる場合、その承諾がなければ申請できません(同法109条1項)。本登記をするときは、Cの登記は登記官の職権で抹消されます(同条2項)。
仮登記は、それだけでは対抗力がない点にも注意しましょう。
相続登記と住所等変更登記の義務化
所有者が分からない土地の発生を防ぐため、権利に関する登記にも申請義務が導入されました。
相続登記の義務化(2024年4月から)
相続(相続人に対する遺贈を含む)によって不動産の所有権を取得した人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権移転登記を申請しなければなりません(不動産登記法76条の2第1項)。法定相続分で登記した後に遺産分割で法定相続分を超えて取得したときも、遺産分割の日から3年以内に登記を申請する必要があります(同条2項)。
2024年4月1日より前に開始した相続も対象です。この場合の3年の期間は、知った日と2024年4月1日のいずれか遅い日から数えます(令和3年法律第24号附則5条6項)。
すぐに遺産分割ができない場合は、登記官に対して、相続が開始したことと自分が相続人であることを申し出る相続人申告登記の制度を使えます(同法76条の3)。期間内にこの申出をすれば、登記申請の義務を履行したものとみなされます。正当な理由なく義務を怠ると、10万円以下の過料の対象になります(同法164条1項)。
住所等変更登記の義務化(2026年4月から)
所有権の登記名義人の氏名・名称・住所に変更があったときは、変更の日から2年以内に変更の登記を申請しなければなりません(不動産登記法76条の5)。2026年4月1日より前に変更があった場合も対象で、変更の日と2026年4月1日のいずれか遅い日から2年以内となります(令和3年法律第24号附則5条7項)。正当な理由なく怠ると、5万円以下の過料の対象になります(同法164条2項)。
登記官が他の公的な情報から変更を把握した場合には、職権で変更の登記をすることもできます。ただし、登記名義人が個人のときは、本人の申出がある場合に限られます(同法76条の6)。
登記事項証明書
誰でも、手数料を納付して、登記記録に記録されている事項の全部または一部を証明した登記事項証明書の交付を請求できます(不動産登記法119条1項)。利害関係を示す必要はありません。また、請求は、その不動産を管轄する登記所以外の登記所でもすることができます(同条5項)。
数字・期間のまとめ
| 項目 | 期間・金額 | 条文 |
|---|---|---|
| 建物の表題登記・滅失登記など表示の登記の申請 | 1か月以内 | 不動産登記法36条・47条・51条・57条 |
| 表示の登記の申請を怠った場合 | 10万円以下の過料 | 同法164条1項 |
| 相続登記の申請 | 知った日から3年以内 | 同法76条の2 |
| 相続登記の申請を怠った場合 | 10万円以下の過料 | 同法164条1項 |
| 住所等変更登記の申請 | 変更の日から2年以内 | 同法76条の5 |
| 住所等変更登記の申請を怠った場合 | 5万円以下の過料 | 同法164条2項 |
| 事前通知に対する申出期間 | 2週間(外国に住所がある場合は4週間) | 不動産登記規則70条8項 |
| 買戻し特約の登記の単独抹消 | 契約の日から10年経過後 | 同法69条の2 |
試験で問われやすいポイント
- 表示に関する登記は登記官が職権でできるが、権利に関する登記は原則として申請が必要
- 区分建物では、表題部所有者から所有権を取得した人も直接所有権保存登記を申請できる
- 相続による移転登記は単独申請できる。遺贈は、相続人に対するものなら単独申請、相続人以外に対するものは共同申請
- 登記申請の委任による代理権は、本人が死亡しても消滅しない
- 所有権に関する仮登記を本登記にするには、登記上の利害関係を有する第三者の承諾が必要
- 相続登記は3年以内・10万円以下の過料、住所等変更登記は2年以内・5万円以下の過料
まとめ
- 登記記録は表題部と権利部(甲区・乙区)に分かれる
- 表示の登記には1か月の申請義務があり、登記官が職権ですることもできる
- 権利の登記は共同申請が原則で、判決・相続・住所変更などは単独申請できる
- 仮登記は順位を確保するもので、本登記をすると仮登記の順位になる
- 2024年4月から相続登記、2026年4月から住所等変更登記の申請が義務になった
この章の内容は、権利関係の一問一答で確認できます。