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権利関係 第9章

債務不履行・解除・危険負担

この章では、契約で約束したことが守られなかったときのルールを学びます。売主が期日に建物を引き渡さない、買主が代金を払わない、といった場面で、相手方は損害賠償を請求したり、契約を解除したりできます。また、どちらの責任でもない事情で建物が滅失した場合に、代金を支払う必要があるのかという「危険負担」も扱います。2020年4月の改正で考え方が大きく変わった分野です。

債務不履行の種類

債務不履行とは、債務者が債務の本旨に従った履行をしないことです。次の3つに分けて考えると分かりやすくなります。

  • 履行遅滞:履行できるのに、履行期を過ぎても履行しない
  • 履行不能:履行することができなくなった(引き渡すはずの建物が焼失した、など)
  • 不完全履行:履行はしたが、内容が不完全だった

いつから遅滞になるか

履行遅滞の責任を負う時期は、期限の定め方によって異なります(民法412条)。

期限の種類遅滞の責任が生じる時
確定期限(例:10月31日に引き渡す)期限が到来した時
不確定期限(例:父が死亡したら引き渡す)期限の到来後に履行の請求を受けた時、または期限の到来を知った時の、いずれか早い時
期限の定めなし履行の請求を受けた時
民法412条をもとに作成

なお、双務契約で相手方に同時履行の抗弁権がある場合、自分の債務の履行を提供しなければ、相手方を履行遅滞にすることはできないと考えられています。

履行不能

債務の履行が、契約などの発生原因と取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者はその履行を請求できません(民法412条の2第1項)。契約の時点ですでに履行が不能だった場合(原始的不能)でも、契約は無効にならず、債権者は損害賠償を請求できます(同条2項)。たとえば、売買契約の前日に建物が焼失していたことを知らずに契約した場合です。

損害賠償

損害賠償の要件

債務者が債務の本旨に従った履行をしないとき、または履行が不能であるときは、債権者は損害賠償を請求できます(民法415条1項)。ただし、その不履行が、契約などの発生原因と取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、損害賠償を請求できません(同項ただし書)。債務者の側が、自分に責任がないことを主張・立証する必要があります。

債権者は、次の場合には、履行そのものに代えて損害賠償(履行に代わる損害賠償)を請求できます(同条2項)。

  • 履行が不能であるとき
  • 債務者が履行を拒絶する意思を明確に表示したとき
  • 契約が解除されたとき、または債務不履行による解除権が発生したとき

損害賠償の範囲

損害賠償は、債務不履行によって通常生ずべき損害が対象です(民法416条1項)。特別の事情によって生じた損害は、当事者がその事情を予見すべきであったときに限り、請求できます(同条2項)。

債務不履行や損害の発生・拡大について債権者にも過失があったときは、裁判所はそれを考慮して、損害賠償の責任と額を定めます(過失相殺、民法418条)。債務不履行の場合、債権者の過失を考慮して責任そのものを否定することもできる点が、不法行為の過失相殺(民法722条2項)と異なります。

賠償額の予定と違約金

当事者は、あらかじめ損害賠償の額を決めておくことができます(賠償額の予定、民法420条1項)。予定しておけば、債権者は損害の発生や額を証明しなくても、予定した額を請求できます。賠償額を予定していても、履行の請求や解除をすることは妨げられません(同条2項)。また、契約で定めた違約金は、賠償額の予定と推定されます(同条3項)。

宅建業者が自ら売主となる売買では、賠償額の予定と違約金の合計額に上限があります(宅建業法38条)。

金銭債務の特則と法定利率

金銭債務の特則

お金を支払う債務(金銭債務)の不履行には、次の特則があります(民法419条)。

  • 損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点の法定利率で計算します。約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率によります
  • 債権者は、損害の証明をする必要がありません
  • 債務者は、不可抗力を理由に責任を免れることができません

お金は常に調達が可能であると考えられるため、履行不能という状態は観念されず、遅滞の責任だけが問題になります。

法定利率

法定利率は、2020年4月の改正で年5%から年3%に引き下げられ、市場金利に合わせて3年ごとに見直す変動制になりました(民法404条)。見直しの結果、2026年4月1日から2029年3月31日までの法定利率も年3%です(法務省の公表による)。

同時履行の抗弁権

売買のように、当事者がお互いに債務を負う契約(双務契約)では、相手方が債務の履行を提供するまで、自分の債務の履行を拒むことができます(民法533条)。これを同時履行の抗弁権といいます。たとえば、売主は、買主が代金を提供するまで、建物の引渡しや移転登記を拒めます。

ただし、相手方の債務の弁済期がまだ来ていないときは、同時履行を主張できません(同条ただし書)。また、同時履行の抗弁権がある間は、履行しないことが違法にはならないため、履行遅滞の責任も生じません。

判例は、建物賃貸借が終了したときの敷金の返還と建物の明渡しは同時履行の関係にならず、明渡しが先であるとしています(民法622条の2も、敷金の返還を明渡し後としています)。

契約の解除

解除の方法

解除は、相手方に対する意思表示によってします(民法540条1項)。一度した解除の意思表示は、撤回することができません(同条2項)。当事者の一方が複数いるときは、解除は全員から、または全員に対してしなければなりません(民法544条1項)。

2020年4月の改正で、債務不履行による解除には、債務者の帰責事由は不要になりました。解除は、債務者に責任を問う制度ではなく、債権者を契約から解放するための制度と位置づけられたためです。一方で、損害賠償の請求には、引き続き債務者の帰責事由が必要です。

催告による解除

債務者が債務を履行しない場合、債権者が相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行がないときは、契約を解除できます(民法541条本文)。ただし、期間を経過した時点での不履行が、契約と取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、解除できません(同条ただし書)。

催告によらない解除

次の場合は、催告をせずに直ちに契約の全部を解除できます(民法542条1項)。

  1. 債務の全部の履行が不能であるとき
  2. 債務者が債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき
  3. 債務の一部が履行不能か、一部の履行を拒絶する意思を明確にした場合で、残りの部分だけでは契約の目的を達することができないとき
  4. 特定の日時や一定の期間内に履行しなければ契約の目的を達することができない契約で、債務者が履行しないままその時期を過ぎたとき(結婚式の衣装の注文など)
  5. その他、催告をしても契約の目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかなとき

債権者に責任がある場合

債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は契約を解除できません(民法543条)。

解除の効果

効果内容条文
原状回復各当事者は相手方を元の状態に戻す義務を負う民法545条1項
第三者の保護解除によって第三者の権利を害することはできない(第三者は登記が必要とするのが判例)民法545条1項ただし書
金銭の返還受け取った時からの利息を付けて返す民法545条2項
物の返還受け取った時以後に生じた果実も返す民法545条3項
損害賠償解除しても損害賠償の請求はできる民法545条4項
同時履行原状回復義務は同時履行の関係に立つ民法546条
民法545条・546条をもとに作成

解除と第三者の関係は、物権変動と対抗要件の章でも説明しています。

危険負担

改正後の危険負担

危険負担とは、双務契約で、一方の債務が当事者双方の責めに帰することができない事由(地震や第三者による放火など)で履行できなくなった場合に、もう一方の債務がどうなるかという問題です。

2020年4月の改正で、債権者は反対給付の履行を拒むことができるとされました(民法536条1項)。たとえば、AがBに建物を売る契約を結び、引渡し前に地震で建物が全焼した場合、買主Bは代金の支払いを拒めます。さらに、建物の引渡しが全部不能になっているので、Bは催告なしに契約を解除することもできます(民法542条1項1号)。解除には売主の帰責事由は不要なので、Bは解除によって代金債務そのものを消滅させることができます。

改正前は、特定物の売買では、引渡し前に滅失しても買主が代金を支払わなければならないという債権者主義の規定(旧534条)がありましたが、この規定は削除されました。

債権者に責任がある場合

債権者の責めに帰すべき事由によって履行できなくなったときは、債権者は反対給付の履行を拒むことができません(民法536条2項)。たとえば、買主Bの不注意で引渡し前の建物が焼失した場合、Bは代金を支払わなければなりません。この場合、売主Aが自分の債務を免れたことで利益を得たとき(保管費用が不要になったなど)は、それをBに償還する必要があります。

引渡し後の滅失

売主が買主に目的物を引き渡した後に、当事者双方の責めに帰することができない事由で目的物が滅失・損傷したときは、買主は、それを理由に追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・解除をすることができず、代金の支払いも拒めません(民法567条1項)。引渡しによって危険が買主に移るということです。

数字・期間のまとめ

項目内容条文
法定利率年3%(3年ごとに見直し。2026年4月〜2029年3月は年3%)民法404条
優先される利率約定利率が法定利率を超えるときは約定利率民法419条1項
催告解除の催告期間相当の期間(日数の定めはない)民法541条

試験で問われやすいポイント

  • 期限の定めのない債務は、履行の請求を受けた時から遅滞になる。不確定期限は、請求を受けた時と到来を知った時のいずれか早い時
  • 金銭債務の不履行では、損害の証明は不要で、不可抗力を理由に責任を免れられない
  • 違約金は賠償額の予定と推定され、賠償額を予定しても解除や履行の請求はできる
  • 債務不履行による解除に、債務者の帰責事由は不要。ただし、不履行が軽微なときは催告解除できず、債権者に帰責事由があるときは解除できない
  • 引渡し前に双方の責任なく建物が滅失したとき、買主は代金の支払いを拒め、契約を解除することもできる
  • 敷金の返還と建物の明渡しは同時履行の関係にならず、明渡しが先

まとめ

  • 債務不履行には履行遅滞・履行不能・不完全履行があり、損害賠償には債務者の帰責事由が必要
  • 損害賠償の範囲は通常損害と、予見すべきであった特別損害
  • 金銭債務の遅延損害金は法定利率(年3%)により、不可抗力でも免責されない
  • 解除には催告解除と無催告解除があり、債務者の帰責事由は不要
  • 危険負担では、債権者は反対給付の履行を拒むことができる。売買の契約不適合責任や手付は売買と契約不適合責任の章で扱う

この章の内容は、権利関係の一問一答で確認できます。

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