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権利関係 第10章

売買と契約不適合責任

この章では、不動産取引の中心となる「売買契約」のルールを学びます。とくに、2020年4月の民法改正で「瑕疵担保責任」から改められた「契約不適合責任」は、権利関係でも宅建業法でもよく出るテーマです。手付による解除とあわせて、要件と期間を正確に押さえましょう。

売買契約の成立と基本的な義務

売買は、売主がある財産権を買主に移転することを約束し、買主がその代金を支払うことを約束することで成立します(民法555条)。契約書の作成や代金の支払いは、成立の条件ではありません。口約束でも、双方の意思が合えば売買契約は成立します。

売買が成立すると、売主と買主は次のような義務を負います。

  • 売主の義務:目的物を引き渡し、権利を移転する義務。あわせて、登記などの対抗要件(第三者に権利を主張するための要件)を買主に備えさせる義務を負います(民法560条)。
  • 買主の義務:代金を支払う義務。引渡しに期限があるときは、代金の支払いも同じ期限と推定されます(民法573条)。引渡しと同時に支払う場合は、引渡しの場所で支払います(民法574条)。
  • 契約の費用:売買契約に関する費用は、特約がなければ売主と買主が半分ずつ負担します(民法558条)。

また、まだ引き渡していない目的物から生じた果実(たとえば賃貸中の建物の賃料)は売主のものです。買主は、引渡しの日から代金の利息を支払う義務を負います。ただし、代金の支払いに期限があるときは、その期限までは利息を払う必要はありません(民法575条)。売主と買主の義務は、原則として同時履行の関係に立ちます(民法533条)。

手付と手付解除

手付とは、契約のときに買主から売主に渡されるお金です。民法は、手付が交付されたときは、次の方法で契約を解除できると定めています(民法557条1項)。

  • 買主は、渡した手付を放棄して解除できる(手付流し)
  • 売主は、手付の倍額を現実に提供して解除できる(手付倍返し)。「倍額を払います」と口頭で伝えるだけでは足りません

ただし、相手方が契約の履行に着手した後は、手付による解除はできません。たとえば、売主Aと買主Bの契約で、Bが残代金を用意してAに支払いを申し出た場合、Bは履行に着手しています。この後はAから手付倍返しで解除することはできません。一方、自分が履行に着手していても、相手方がまだ着手していなければ、自分から手付解除をすることは可能です。条文が「相手方が」着手した後と定めているためです。

手付解除は、相手方に債務不履行がなくても認められる解除です。そのため、手付解除をした場合には、手付の放棄や倍返しとは別に損害賠償を請求されることはありません(民法557条2項が545条4項の適用を外しています)。宅建業者が自ら売主となる場合の手付の制限は、8種制限の章で扱います。

他人の物の売買

他人が所有する土地を売る契約も、有効に成立します。この場合、売主はその権利を取得して買主に移転する義務を負います(民法561条)。たとえば、AがC所有の土地をBに売った場合、AはCから土地を取得してBに移転しなければなりません。

Aが権利を取得できずBに移転できなかった場合は、債務不履行の一般ルールに従って、Bは契約の解除や損害賠償の請求をすることができます(民法541条・542条・415条)。損害賠償にはAの帰責事由(責任があること)が必要ですが、解除には不要です。債務不履行と解除のしくみは、債務不履行・解除・危険負担の章で確認してください。

契約不適合責任(売主の担保責任)

引き渡された目的物が、種類・品質・数量について契約の内容に適合しないとき、売主は契約不適合責任を負います。「雨漏りしない建物」として売った建物が雨漏りする、100平方メートルとして売った土地が実際には90平方メートルしかない、といった場合です。買主が取れる手段は次の4つです。

買主が取れる4つの手段

  1. 履行の追完請求:修補(修理)、代替物の引渡し、不足分の引渡しを請求できます。売主は、買主に不相当な負担を課さないときは、買主が求めた方法と別の方法で追完することもできます(民法562条1項)。
  2. 代金減額請求:原則として、相当の期間を定めて追完を催告し、その期間内に追完がないときに、不適合の程度に応じて減額を請求できます。追完が不能なとき、売主が追完を明確に拒絶したときなどは、催告なしで直ちに減額を請求できます(民法563条)。
  3. 損害賠償請求:債務不履行の一般ルールによります。売主に帰責事由がなければ、損害賠償は請求できません(民法564条・415条)。
  4. 契約の解除:こちらも一般ルールによります。売主の帰責事由は不要ですが、催告後の不履行が軽微なときは解除できません(民法564条・541条・542条)。

不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は追完請求も代金減額請求もできません(民法562条2項・563条3項)。また、改正前の瑕疵担保責任とは違い、買主が不適合を知っていたかどうか(善意・悪意)は、責任の要件として条文に書かれていません。契約の内容に何が含まれていたかで判断します。

権利の不適合

移転した権利が契約の内容に適合しない場合も、同じ4つの手段が準用されます(民法565条)。たとえば、売った土地に契約で想定していない地上権が付いていた場合や、権利の一部が他人のもので移転できなかった場合です。また、契約の内容に適合しない抵当権が付いていた不動産について、買主が費用を出して所有権を守った(たとえば代わりに弁済した)ときは、売主にその費用の償還を請求できます(民法570条)。

責任追及の期間と特約

種類・品質の不適合は「知った時から1年以内に通知」

種類または品質の不適合については、買主がその不適合を知った時から1年以内に売主に通知しないと、4つの手段すべてが使えなくなります(民法566条本文)。1年以内に必要なのは「通知」であり、裁判を起こしたり具体的な請求額を示したりすることまでは求められていません。ただし、売主が引渡しの時に不適合を知っていた、または重大な過失で知らなかったときは、この期間制限はかかりません(同条ただし書)。

この1年の通知期間は、数量の不適合と権利の不適合には適用されません。これらは債権の消滅時効の一般ルールによります。つまり、権利を行使できることを知った時から5年、権利を行使できる時から10年で時効により消滅します(民法166条1項)。種類・品質の不適合でも、この消滅時効は1年の通知期間とは別に適用されます。通知をしても時効が止まるわけではないため、時効期間内に権利を行使する必要があります。

担保責任を負わない旨の特約

契約不適合責任の規定は任意規定なので、「売主は契約不適合責任を負わない」という特約も原則として有効です。ただし、売主が知りながら告げなかった事実や、売主が自ら第三者のために設定したり第三者に譲り渡したりした権利については、特約があっても責任を免れません(民法572条)。

なお、特別法による修正があります。宅建業者が自ら売主となり、買主が宅建業者でない場合は、通知期間を「引渡しの日から2年以上」とする特約を除き、民法より買主に不利な特約は無効です(宅建業法40条)。新築住宅の売主は、構造耐力上主要な部分などの瑕疵について引渡しから10年間責任を負い、これより買主に不利な特約は無効です(住宅の品質確保の促進等に関する法律95条)。

危険の移転と代金支払の拒絶

売主が目的物(売買の目的として特定したもの)を引き渡した後に、売主・買主どちらの責任でもない事由(地震や類焼など)で目的物が滅失・損傷したときは、買主は追完・減額・損害賠償・解除のいずれも主張できず、代金の支払いも拒めません(民法567条1項)。引渡しによって、滅失・損傷の危険が買主に移るということです。

売主が契約に適合する物で引渡しを提供したのに、買主が受け取りを拒んだり受け取れなかったりした場合も、その提供の時以後の滅失・損傷について同じ扱いになります(民法567条2項)。反対に、引渡し前に双方の責任でない事由で建物が滅失した場合は、買主は代金の支払いを拒むことができます(民法536条1項)。

また、買い受けた不動産に契約の内容に適合しない抵当権の登記があるときは、買主は抵当権消滅請求の手続が終わるまで代金の支払いを拒むことができます(民法577条)。

買戻し

買戻しとは、不動産の売主が、売買契約と同時に結んだ特約によって、買主が支払った代金(別の合意があればその額)と契約の費用を返して、売買を解除できるしくみです(民法579条)。代金と費用を返すことが条件で、利息は特約がなければ果実と相殺したものとみなされます。

  • 買戻しの期間は10年を超えることができません。10年より長く定めたときは10年になります(民法580条1項)。
  • 期間を定めた場合、後から延ばすことはできません。期間を定めなかったときは、5年以内に買い戻さなければなりません(民法580条2項・3項)。
  • 売買契約と同時に買戻しの特約を登記すると、第三者にも対抗できます(民法581条1項)。

数字・期間のまとめ

項目数字・期間根拠
売主による手付解除手付の倍額を現実に提供民法557条
種類・品質の不適合の通知不適合を知った時から1年以内民法566条
債権の消滅時効(数量・権利の不適合など)知った時から5年/行使できる時から10年民法166条
宅建業者が売主の場合の特約通知期間を引渡しから2年以上とする特約は有効宅建業法40条
新築住宅の売主の瑕疵担保責任引渡しから10年(特約で20年まで延長可)住宅品確法95条・97条
買戻しの期間最長10年/定めがなければ5年民法580条
e-Gov法令検索の民法・宅地建物取引業法・住宅の品質確保の促進等に関する法律をもとに作成(2026年10月確認)

試験で問われやすいポイント

  • 手付解除ができなくなるのは「相手方」が履行に着手した後。自分だけが着手している段階なら、自分からは解除できる
  • 売主の手付倍返しは「現実の提供」が必要。口頭で伝えるだけでは解除できない
  • 契約不適合を理由とする損害賠償には売主の帰責事由が必要だが、解除・追完・代金減額には不要
  • 1年以内に必要なのは「通知」で、起算点は「知った時」。引渡しの時ではない。数量・権利の不適合には1年の制限がない
  • 責任を負わない特約があっても、売主が知りながら告げなかった不適合については責任を免れない

まとめ

  • 売買は合意だけで成立し、売主は登記などの対抗要件を備えさせる義務も負う
  • 手付解除は、相手方が履行に着手するまで。買主は放棄、売主は倍額の現実の提供
  • 契約不適合の救済は、追完・代金減額・損害賠償・解除の4つ。減額は原則として催告が先
  • 種類・品質の不適合は、知った時から1年以内に通知。売主が悪意・重過失なら制限なし

この章の内容は、権利関係の一問一答で確認できます。

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