権利関係 第11章
賃貸借(民法)
この章では、民法が定める賃貸借の基本ルールを学びます。建物の所有を目的とする土地の賃貸借や、建物の賃貸借には借地借家法が優先して適用されますが、借地借家法に定めがない部分は民法のルールで決まります。転貸、敷金、賃貸人の地位の移転はよく出る論点なので、条文の言葉で正確に覚えましょう。
賃貸借とは・存続期間
賃貸借は、貸す側(賃貸人)が物を使わせることを約束し、借りる側(賃借人)が賃料を支払い、契約が終わったら物を返すことを約束することで成立します(民法601条)。合意だけで成立する契約(諾成契約)で、書面は必要ありません。
民法上の賃貸借の存続期間は最長50年です。50年より長い期間を定めても50年に短縮されます。更新はできますが、更新後の期間も更新の時から50年を超えられません(民法604条)。最短期間の定めはありません。なお、処分の権限を持たない人(たとえば不在者の財産管理人)が貸す場合は、建物3年・土地5年など、より短い上限があります(民法602条)。
期間を定めなかった場合、各当事者はいつでも解約の申入れができ、土地は申入れから1年、建物は3か月、動産は1日が経過すると終了します(民法617条1項)。また、期間満了後も賃借人が使用を続け、賃貸人がそれを知りながら異議を述べないときは、従前と同じ条件で更新したものと推定されます(民法619条1項)。
不動産賃貸借の対抗力と賃貸人の地位の移転
対抗力
不動産の賃貸借は、登記をすれば、その不動産を後から取得した人などの第三者に対抗できます(民法605条)。ただし、賃借権の登記には賃貸人の協力が必要で、実際にはあまり行われません。そこで借地借家法は、借地上の建物の登記(借地借家法10条)や建物の引渡し(同法31条)でも対抗力を認めています。くわしくは借地の章と借家の章で学びます。
対抗要件を備えた不動産の賃借人は、第三者が占有を妨害しているときは妨害の停止を、第三者が占有しているときは返還を請求できます(民法605条の4)。
賃貸人の地位の移転
AがBに貸している建物をCに売った場合を考えます。Bの賃貸借が対抗要件を備えているときは、賃貸人の地位は当然にCへ移転します(民法605条の2第1項)。対抗要件がない場合でも、AとCの合意があれば、賃借人Bの承諾なしに賃貸人の地位をCに移せます(民法605条の3)。
- 新しい賃貸人Cが賃借人Bに賃料を請求するには、建物の所有権移転登記が必要です(民法605条の2第3項)。
- Bが預けていた敷金の返還債務と、Bが支出した費用の償還債務は、Cが引き継ぎます(民法605条の2第4項)。
- AとCが「賃貸人の地位はAに残し、CがAに貸す」と合意したときは、地位は移転しません(民法605条の2第2項)。
賃貸人・賃借人の権利と義務
修繕
賃貸人は、使用収益に必要な修繕をする義務を負います。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由で修繕が必要になったときは、この義務を負いません(民法606条1項)。賃貸人が保存に必要な行為をしようとするとき、賃借人は拒めません(同条2項)。
賃借人は、修繕が必要なことを賃貸人に通知した(または賃貸人が知った)のに相当の期間内に修繕されないとき、または急迫の事情があるときは、自分で修繕できます(民法607条の2)。
費用の償還
- 必要費(雨漏りの修理など、物を使える状態に保つ費用):賃借人は直ちに償還を請求できます(民法608条1項)。
- 有益費(物の価値を高める費用):賃貸借の終了時に、価格の増加が残っている場合に限り、支出額か増加額のどちらかを賃貸人が選んで償還します(民法608条2項・196条2項)。
契約の趣旨に反する使用による損害の賠償と、賃借人が支出した費用の償還は、賃貸人が物の返還を受けた時から1年以内に請求しなければなりません(民法622条・600条)。
一部滅失と全部滅失
賃借物の一部が滅失などで使えなくなり、それが賃借人の責めによらないときは、使えない部分の割合に応じて賃料は当然に減額されます(民法611条1項)。請求しなくても減額される点に注意してください。残った部分だけでは目的を達せないときは、賃借人は解除できます(同条2項)。全部が使えなくなったときは、賃貸借は当然に終了します(民法616条の2)。
賃料は、特約がなければ、動産・建物・宅地は毎月末に、その他の土地は毎年末に支払います(民法614条)。後払いが原則です。
賃借権の譲渡・転貸
賃借人は、賃貸人の承諾がなければ、賃借権を譲渡したり、賃借物を転貸(又貸し)したりできません。無断で第三者に使用させたときは、賃貸人は契約を解除できます(民法612条)。ただし判例は、無断転貸でも賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、解除できないとしています。背信性があるかどうかは、使わせた相手との関係や使い方などから、個別に判断されます。
適法な転貸の効果
AがBに貸し、Bが承諾を得てCに転貸した場合、転借人Cは、AB間の賃貸借に基づくBの債務の範囲を限度として、Aに対して直接に義務を負います(民法613条1項)。たとえばAB間の賃料が月10万円、BC間が月12万円なら、AはCに月10万円まで直接請求できます。CはBに賃料を前払いしていたことを理由にAの請求を拒めません。
- 合意解除:AとBが賃貸借を合意で解除しても、Cに対抗できません。ただし、その時点でAがBの債務不履行による解除権を持っていたときは対抗できます(民法613条3項)。
- 債務不履行解除:Bの賃料不払いでAが解除した場合、AはCに明渡しを求められます。判例は、AがBに催告すれば足り、Cに支払いの機会を与える必要はないとしています。
敷金と原状回復
2020年4月の改正で、敷金の定義と返還のルールが条文になりました。敷金とは、名目を問わず、賃料などの賃借人の金銭債務を担保する目的で賃借人が賃貸人に交付するお金です(民法622条の2第1項)。「保証金」という名前でも、この目的なら敷金にあたります。
- 返還の時期:賃貸借が終了し、かつ物の返還を受けたとき、または賃借人が適法に賃借権を譲渡したときです。未払い賃料などを差し引いた残額を返します(民法622条の2第1項)。明渡しが先で、敷金返還が後になるため、明渡しと敷金返還は同時履行の関係に立ちません。
- 充当:賃貸人は、賃借人の未払いに敷金を充てることができます。しかし賃借人から「敷金を未払い賃料に充ててほしい」と請求することはできません(民法622条の2第2項)。
- 賃借人が交代した場合:適法な賃借権の譲渡があると敷金の返還義務が生じるため、旧賃借人の敷金は新賃借人に当然には引き継がれません。
賃借人は、賃貸借が終了したときに、受け取った後に生じた損傷を原状に戻す義務を負います。ただし、通常の使用による損耗と経年変化は除かれます。たとえば日焼けによる壁紙の変色や、家具を置いた床のへこみは、原則として賃借人の負担ではありません。また、賃借人の責めに帰することができない損傷も対象外です(民法621条)。
賃貸借の終了
賃貸借の解除は、将来に向かってのみ効力を生じます(民法620条)。すでに使用した期間の賃料を返す必要はありません。期間の定めがある賃貸借でも、中途解約できる権利を留保していれば、期間の定めがない場合と同じ期間で終了します(民法618条)。
賃借人が死亡しても、賃借権は相続されます。使用貸借(無償の貸し借り)が借主の死亡で終了するのとは違います(民法597条3項)。使用貸借については請負・委任・その他の契約の章で比較します。
数字・期間のまとめ
| 項目 | 数字・期間 | 根拠 |
|---|---|---|
| 存続期間の上限 | 50年(更新後も更新時から50年) | 民法604条 |
| 期間の定めがない場合の解約申入れ | 土地1年/建物3か月/動産1日 | 民法617条 |
| 処分の権限がない者の短期賃貸借 | 山林10年/その他の土地5年/建物3年/動産6か月 | 民法602条 |
| 損害賠償・費用償還の請求期間 | 返還を受けた時から1年以内 | 民法622条・600条 |
| 賃料の支払時期(特約なし) | 動産・建物・宅地は毎月末/その他の土地は毎年末 | 民法614条 |
試験で問われやすいポイント
- 賃貸人の地位の移転に賃借人の承諾は不要。ただし新賃貸人が賃料を請求するには所有権移転登記が必要
- 必要費は直ちに、有益費は終了時に償還請求。混同させるひっかけが多い
- 敷金の返還は明渡しの後。明渡しと敷金返還は同時履行ではない
- 賃借人から敷金を未払い賃料に充当するよう請求することはできない
- 転貸借で、賃貸借を合意解除しても転借人に対抗できない。債務不履行解除なら対抗できる
- 通常損耗・経年変化は原状回復の対象外
まとめ
- 民法上の賃貸借は最長50年。建物と借地には借地借家法が優先する
- 対抗要件を備えた賃貸不動産が譲渡されると、賃貸人の地位と敷金返還債務は譲受人に移る
- 無断譲渡・転貸は解除事由だが、背信的行為と認めるに足りない特段の事情があれば解除できない
- 敷金は返還を受けた後に残額を返し、原状回復には通常損耗・経年変化を含まない
この章の内容は、権利関係の一問一答で確認できます。