権利関係 第16章
不法行為
この章では、契約関係にない人に損害を与えた場合の責任を定めた「不法行為」を学びます。宅建試験では、従業員が起こした事故で会社が責任を負う使用者責任や、建物の欠陥で通行人がけがをした場合の工作物責任が、事例問題の形でよく問われます。誰が誰に、どの範囲で責任を負うのかを図にして整理しましょう。
一般的な不法行為の要件
故意または過失によって他人の権利や法律上保護される利益を侵害した人は、それによって生じた損害を賠償する責任を負います(民法709条)。成立には、次の要件が必要です。
- 加害者の故意または過失
- 権利または法律上保護される利益の侵害
- 損害の発生
- 行為と損害の間の因果関係
- 加害者に責任能力があること
損害には、財産的な損害だけでなく、精神的な苦痛(慰謝料)も含まれます(民法710条)。他人の生命を侵害した場合は、被害者の父母・配偶者・子は、自分の財産に損害がなくても慰謝料を請求できます(民法711条)。胎児は、損害賠償の請求権については、すでに生まれたものとみなされます(民法721条)。
他人の不法行為から自分や第三者の権利を守るため、やむを得ずした加害行為(正当防衛)は、損害賠償の責任を負いません(民法720条1項)。
損害賠償の効果
金銭賠償と過失相殺
損害賠償は、原則として金銭で支払います(民法722条1項・417条)。被害者にも過失があったときは、裁判所はそれを考慮して賠償額を定めることができます(民法722条2項)。債務不履行の過失相殺では、裁判所は必ず考慮し、責任そのものを否定することもできる(民法418条)のと比べて、不法行為では考慮するかどうかが裁判所の裁量になっている点が違います。
判例は、被害者本人だけでなく、被害者と身分上・生活関係上一体をなす人(たとえば幼児の親)の過失も「被害者側の過失」として考慮できるとしています。
履行遅滞の時期と相殺の禁止
不法行為による損害賠償債務は、判例上、損害の発生と同時に(不法行為の時から)遅滞に陥るとされています。被害者が請求するのを待たずに、遅延損害金が発生します。
また、次の損害賠償債務の加害者(債務者)は、自分が被害者に対して持つ債権と相殺して支払いを免れることができません(民法509条)。
- 悪意(積極的に害する意思)による不法行為に基づく損害賠償債務
- 人の生命または身体の侵害による損害賠償債務
被害者の側から、これらの損害賠償請求権を使って相殺することは禁止されていません。現実に賠償金を受け取れるようにするための規定なので、禁止されるのは加害者からの相殺だけです。
損害賠償請求権の消滅時効
不法行為による損害賠償の請求権は、次のいずれかで時効によって消滅します(民法724条)。
- 被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った時から3年間行使しないとき
- 不法行為の時から20年間行使しないとき
人の生命または身体を害する不法行為の場合は、「知った時から3年間」が5年間に延びます(民法724条の2)。2020年4月の改正で、20年の期間も除斥期間ではなく消滅時効であることが明確になりました。そのため、時効の完成猶予や更新の対象になります。
責任無能力者と監督義務者の責任
自分の行為の責任を理解する知能(責任能力)がない未成年者は、損害賠償責任を負いません(民法712条)。精神上の障害で責任能力を欠く状態にある人も同じですが、故意または過失によって一時的にその状態を招いたときは責任を負います(民法713条)。
責任無能力者が責任を負わない場合、親権者など監督する法定の義務を負う人が賠償責任を負います。ただし、監督義務を怠らなかったこと、または怠らなくても損害が生じたことを証明すれば、責任を免れます(民法714条1項)。
使用者責任と注文者の責任
使用者責任
ある事業のために他人を使用する人(使用者)は、被用者(従業員など)が事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負います(民法715条1項)。たとえば、不動産会社Aの従業員Bが、営業車で物件案内に向かう途中に歩行者Cをはねた場合、CはBにもAにも損害賠償を請求できます。
- 事業の執行について:判例は、行為の外形から客観的に見て職務の範囲内に属すると見えれば足りるとしています(外形標準説)。ただし、職務の範囲外であることを被害者が知っていたか、重大な過失で知らなかったときは、使用者は責任を負いません。
- 免責:使用者が被用者の選任と事業の監督について相当の注意をしたこと、または相当の注意をしても損害が生じたことを証明すれば、責任を免れます(民法715条1項ただし書)。実際に認められることはまれです。
- 求償:被害者に賠償した使用者は、被用者に求償できます(民法715条3項)。ただし判例は、損害の公平な分担という見地から、信義則上相当と認められる限度に制限しています。逆に、被用者が被害者に賠償した場合に、使用者へ相当な額を求償することも判例で認められています。
注文者の責任
請負人は注文者から独立して仕事をするため、注文者は、請負人が仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を原則として負いません。ただし、注文や指図について注文者に過失があったときは責任を負います(民法716条)。
土地工作物責任と共同不法行為
土地工作物責任
建物やブロック塀などの土地の工作物の設置または保存に瑕疵(本来あるべき安全性を欠くこと)があって他人に損害を与えたときは、まず占有者が責任を負います。占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたことを証明したときは、所有者が責任を負います(民法717条1項)。
たとえば、Aが所有しBに賃貸している建物の外壁が落ちて通行人Cがけがをした場合、まず占有者Bが責任を負い、Bが必要な注意をしていたときは所有者Aが責任を負います。所有者の責任には免責の規定がありません。過失がなくても責任を負う無過失責任です。占有者や所有者は、損害の原因について他に責任を負う人(たとえば欠陥工事をした建設業者)に求償できます(同条3項)。
共同不法行為
数人が共同の不法行為で他人に損害を加えたときは、各自が連帯して全額の賠償責任を負います。共同行為者のうち誰が損害を加えたか分からない場合も同じです。教唆(そそのかすこと)や幇助(手助けすること)をした人も、共同行為者とみなされます(民法719条)。被害者は、加害者の誰に対しても全額を請求できます。自分の負担部分(過失の割合などで決まります)を超えて賠償した加害者は、その超えた部分について他の加害者に求償できるとするのが判例です。
使用者責任と組み合わさった事例もよく出ます。たとえば、A社の被用者BとC社の被用者Dの車が衝突し、歩行者Eがけがをした場合、B・Dは共同不法行為者として連帯して責任を負い、A社・C社もそれぞれ使用者責任を負います。
数字・期間のまとめ
| 項目 | 期間 | 根拠 |
|---|---|---|
| 損害賠償請求権の消滅時効(原則) | 損害と加害者を知った時から3年 | 民法724条1号 |
| 生命・身体の侵害の場合 | 損害と加害者を知った時から5年 | 民法724条の2 |
| 長期の消滅時効 | 不法行為の時から20年 | 民法724条2号 |
試験で問われやすいポイント
- 3年(生命・身体は5年)の起算点は「損害および加害者を知った時」。損害を知っただけでは進行しない
- 不法行為の損害賠償債務は、請求を待たずに不法行為の時から遅滞になる
- 使用者から被用者への求償は、全額ではなく信義則上相当な限度に制限される
- 工作物責任は占有者が先、所有者が後。所有者は免責されない
- 悪意の不法行為・生命身体の侵害による賠償債務について、加害者からの相殺はできないが、被害者からの相殺はできる
まとめ
- 不法行為は故意・過失、権利侵害、損害、因果関係、責任能力で成立する
- 消滅時効は知った時から3年(生命・身体は5年)、不法行為の時から20年
- 使用者責任は外形から判断し、求償は信義則上の限度に制限される
- 工作物責任は占有者が第一次、所有者は無過失でも責任を負う
この章の内容は、権利関係の一問一答で確認できます。